忠誠の主


 
 
 
 
 
フーブラス川でラスティは俺にとてつもない事が起こると忠告し、正しい目で物事を判断するように言った。そしてケセドニアでは主として命令を与えた。ルークの傍から離れるな。つまりこれから先に起こる出来事にはルークが関係してくるって事だ…。そしてあいつは確実に何かを知っている。知っているが、俺には全ての情報を与えようとはしない。もちろんその理由はバチカルで聞いているが…、正直気にくわねぇ…。
 
 
「ねぇ、スパーダ…。暑くないのぉ…?」
 
 
ちなみに現在俺たちは砂漠を横断中である。そしてこの砂漠のうだるような暑さにやられて完全に出来上がっているアニスが、俺に向かって恨めし気な目を向けながらそう聞いてきた。てかこの砂漠で暑くないなんてありえねぇだろ…。むちゃくちゃあちぃよ…。
 
 
「暑いに決まってンだろ」
 
 
こんなくそ暑い中涼しい顔出来てるのはそこの嫌味大佐ぐらいじゃねぇか…、チッ!
 
 
「おやぁ、嫌味だなんて失礼な」
 
 
おっと、うっかり漏れたみたいだな、このくそ大佐。
 
 
「何か私に恨みでもあるのですかぁ?」
 
 
ああ、結構あると思うぜ?そのすかした顔とかな。
 
 
「と言うか、何故旦那は独り言を言ってるんだ?」
 
 
「嫌ですねぇ、ガイ。きちんと会話は成り立ってるんですよ」
 
 
なんて笑いながら俺を見る嫌味大佐。認めたくは無いが、何故か読心術が出来る嫌味大佐。ガイはどこか遠い物を見る目でジェイドと俺を見ていた。
ちなみに俺たちは今イオン奪還のためにザオ遺跡と呼ばれる場所に向かっている。何故そうなったのかというと、最初は砂漠のオアシスで情報を得ようとしていたんだが、何故かルークの頭にアッシュって奴の声が聞こえてきて、ザオ遺跡にいるって伝えてきたらしい。んで、それ以外に手掛かりが無い俺たちはザオ遺跡に向かう事にした、と言うことだ。正直言って俺は自分たちの身よりも、あいつが暴走していないかが心配だ。あいつは暑い所が死ぬほど苦手だからな…。
 
 
「でもぉ、スパーダなんか涼しそうだよ?」
 
 
未だに恨めしそうな目を止めないアニスはしつこいくらいに俺に視線を向けてくる。しかしそれを相手にしてやるほど俺は優しくないので、とりあえず軽く返事だけして流すことにした。こっからは俺の考えなんだが、おそらく俺の前世が剣だったからじゃねぇかと思う。昔旅をしてた時も火山の暑さをそこまで辛いとは感じなかったし…。まああの時は暑さよりも懐かしさが先を行ってたからほとんど覚えてないようなもんなんだがな…。
 
 
「おい、ジェイド。あれか?」
 
 
ふと目を凝らしてみると、砂漠の奥に何かの建物を発見することが出来た。ほとんどが砂に埋もれているような感じで見つけにくかったが、見逃すことはなかった。
 
 
「ええ、あれでしょう」
 
 
「よし、行くか」
 
 
半分埋もれているような遺跡へと、足を踏み入れた。イオンを奪還するために。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
踏み込んだ遺跡は外の暑さが嘘のように涼しかった。さっきまでうるさかったアニスが急に黙るくらいに。
 
 
「中は暗そうですわね」
 
 
バチカルの廃工場にて半ば無理矢理仲間に加わったナタリアが周りを見回しながらそう言った。俺はそんなナタリアの言葉を聞きながら螺旋階段の下を覗き込んだ。
 
 
「慣れちまえば問題ねーよ」
 
 
螺旋階段はかなり長いものだが、そこまで時間はかからなそーだ。問題は…、イオンを連れ去った相手が俺たちよりも格上の六神将だって事だ。俺は旅をしてきた経験があるからそこそこ戦えると自負してるが、ルークや能力が大幅に下がっている嫌味大佐には厳しい戦いになると思う…。
俺はそんな事を考えながら遺跡に住む魔物を蹴散らし、遺跡の奥の方へと進んで行く。そして、一番奥と思われる場所に、それはいた。
 
 
「イオン!」
 
 
イオンを連れているアッシュ。そしてその二人へ近づけさせないためなのか、階段のところには前に戦ったラルゴとか言う奴と、シンクって言う奴が武器を構えて立っていた。今のところあいつの姿は見えないが、おそらくあいつの事だからどこかに隠れているんだろうな…。あいつは自分から戦いに参加するような性格でもねぇし。
 
 
「導師イオンは儀式の真っ最中だ。大人しくしてもらおう」
 
 
ラルゴはそのでかい図体と同じようにでかい鎌を構えてそう言った。それに対してアニスはキッと眉を吊り上げた。
 
 
「シンク!ラルゴ!イオン様を返してよっ!」
 
 
「そうはいかない。奴にはまだ働いてもらう」
 
 
シンクがそう言って拳を構えた。どうやらシンクは体術を使うみたいだな…。だとしたらあいつの動きは早いってこった。
 
 
「なら、力ずくでも…」
 
 
ルークが眉間にしわを寄せて腰に携えている剣を引き抜いた。しかしその声は震えていて、無理をしている事は一目瞭然だった。ラルゴたちも気づいているだろう。
 
 
「こいつは面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどう成長したか、見せてもらおうか」
 
 
「は!ジェイドに負けて死にかけた奴が、デカい口を叩くな!」
 
 
「わははははっ、違いない!だが、今回はそう簡単に負けぬぞ、小僧!六神将黒獅子ラルゴ!いざ、尋常に勝負!」
 
 
ラルゴが巨大な鎌を振り回し、こちらへ駆け出す。


「同じく烈風のシンク……本気で行くよ」


そして同じようにシンクが拳を構えて階段を一気に駆け下りる。俺もすぐさま双剣を抜き、油断なく構える。とりあえず、だ、ここで下手に術を使ってあの嫌味大佐に警戒されるのもあれだし…。
 
 
「いっちょやってやるぜぇ!!」
 
 
グッと足に力を込めて一気に走り出す。そんな俺の行動に誰かが驚いた声を上げるが、俺は聞こえない振りをしてラルゴに向かって双剣を振り下ろした。ラルゴは図体から見てもわかるパワータイプだ。それに比べシンクは素早さと手数を重視するタイプだろう。だったら攻撃力の高いラルゴは俺と相手をした方がいい。
 
 
「小僧一人では荷が重いだろう!」
 
 
俺の双剣を鎌で受け止めたラルゴは、それを振るう事によって俺から距離を取った。そして相手が俺一人だとわかると豪快に笑いながら馬鹿にしてくれやがった。ハッ!馬鹿にされてるってわかってんだ!手加減する必要はねぇよなぁ?
 
 
「ナメんじゃねぇぞ!おっさん!!」
 
 
足に力を込めて出来るだけ高く飛び上がった。ラルゴは俺の跳躍に驚いた声を上げるが、俺はそれを無視して勢いをつけた剣をラルゴに向かって振り下ろした。ラルゴは重力のかかった剣を軽々と受け止めると、また笑った。
 
 
「ただ飛び上がっただけでは俺には勝てんぞ」
 
 
その言葉に思わず笑みが零れた。これだから大人っつうのは嫌いなんだよ。ガキだからって簡単に弱いって決めつけてよォ…。馬鹿だぜおっさん。相手を見た目で判断するなんてな!!
 
 
「油断は敗北を招くぜ!?虎牙破斬!」
 
 
素早くラルゴの大鎌の下に剣を滑り込ませ、下から上へ切り上げる。ラルゴの手に衝撃が走り、鎌を持つ手が少し緩まる。その瞬間を狙って上から叩きつけるようにもう片方の剣を振り下ろす。ラルゴの手に力が入り、鎌を落とさないように踏ん張る。俺は振り下ろした時の力を使ってまだ空中に止まり、そのままさらに剣を虎牙破斬のように滑り込ませてもう一度下から衝撃を与え、最後に雷を纏った剣を一気に振り下ろす。
 
 
「襲爪雷斬!」
 
 
雷を纏った攻撃。体中を駆け巡る電撃を食らったラルゴは、ついにその手から鎌を落とした。その瞬間の顔は見ものだったぜ?目を見開いて俺を顔を凝視したんだ。けど俺はそれだけで油断せず、地面に着地した瞬間素早く足をバネのように働かせ、一気に体を捻りながら剣を振り回した。
 
 
「閃空衝裂破!!」
 
 
まるで渦巻きのようにぐるぐると体を回転させながらラルゴを斬り上げる。そして回転が途絶えた瞬間に双剣を薙いでその巨体を吹き飛ばした。ラルゴはそのまま地面に倒れこみ、再び体を起こそうとしているようだったけど、力が入らねぇみたいだった。そりゃあそりゃあそうだろ。あんだけまともに食らったんだからな。俺は地面に着地してすぐさまルークたちの方を振り返った。どうやら苦戦しながらも勝利しているようだった。やっぱり俺がラルゴを引き受けて良かったかもな。
 
 
「二人がかりで何やってんだ!屑!」
 
 
アッシュが二人を罵倒しながら階段を駆け下りてくるが、お前は戦ってねぇだろ!大体こっちは七人いるんだぜ?むしろこの二人は褒められてもいいんじゃね?
なんてアホな考えをしていたら階段を下りたアッシュがこちらへと駆け出していた。俺が仕方なく剣を構えて行こうとした瞬間、視界の端で朱が動き出していた。
 
 
「馬鹿っ!?」
 
 
遅れて行こうとした時にはルークとアッシュは刃を合わせていた。そしてそのまま流れるような動作で剣を振り上げてから再び下ろす。
 
 
「「双牙斬!」」
 
 
二人は全く同じくタイミングで同じ技を出し、互いに技を弾かれて後ろに下がる。
 
 
「今の…今のはヴァン師匠の技だ……どうしてそれをお前が使えるんだ!」
 
 
まるで鏡のように息が合っていた。技を出す瞬間のタイミングも、ズレ一つなかった。本当に鏡がその場に存在しているみたいだった…。
 
 
「決まってんだろうが!同じ流派だからだっ、ボケがっ!俺は…」
 
 
アッシュが何か言いかけた瞬間、どこからともなく声が聞こえた。あいつの声だ。
 
 
「おーい、俺の事は無視なのかい?酷くね?」
 
 
声のする方へと視線をやると、そこには壁に背中を預けたラスティが腕を組みながらどこか不機嫌そうにこちらを見ていた。つかなんで不機嫌なわけ?構って欲しかったんなら最初から参加しやがれ。そんな俺とは裏腹にルークたちは顔を強張らせていた。シンクとの戦いでほとんどの力を使い切ってしまったのにまだラスティという敵がいた…。まあこれは事情を知らない奴にとってはピンチ以外の何物でもないかもな。
 
 
「つーかお前ら油断しすぎ。情けねぇの」
 
 
ラスティはその場から離れようとせず、壁に背中を預けたままケタケタと笑っていた。その目は全く笑ってないし、言葉は辛辣なものだったが。
 
 
「てめぇ…どういうつもりだ…。戦えっつったろうがっ!」
 
 
アッシュが顔を歪めて憎々しげにそう吐き出すと、ラスティは顔は一瞬にして変わり、見た者を凍らすような冷たい藍色の瞳になる。
 
 
「馬鹿が俺に指図すんじゃねぇよ。俺に命令出来るのはお前じゃねぇんだよ、すっこめ」
 
 
ラスティは冷たい瞳でそう言いながら壁から背を離し、斬りかかられない程度にこちらへと近づいた。
 
 
「取引だ。こっちは導師イオンをそちらに返す。その代わり、もうここでの争いは無しだ。もちろん、戦おうなんて気を起こすなよ?俺はお前らを殺せる力があるんだからな」
 
 
不敵な笑みを浮かべながらリリーを抜き、その切っ先をガイへと向けた。たぶんガイが何かアプローチをかけようとしていたからだろうな。俺はそっとルークの耳元に取引を応じるように説得した。ルークは渋々だがそれに応じ、ラスティは優しい手つきでイオンをアニスへと引き渡した。
 
 
「さあ、出て行きな。死にたくなかったらな」
 
 
わざと突き放すように冷たく吐き出された言葉に、俺たちは外に出るしかなかった。
あのアッシュを見た冷たい視線に、あの言葉。おそらくラスティは俺と同じ事を考えているからああ言ったんだな。俺の剣は俺と、あいつと、仲間のためにある。そして、騎士に命令できんのは主のみだ。
 
 
「臭い奴…」
 
 
遺跡を出た瞬間、再び砂漠の熱気が俺たちを包み込んだ。
 
 
 
 
 

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