腐りきった世界


 
 
 
 
 
昨日会ったラスティの事が忘れられなくて、正直あんまり寝られなかった…。体力をつけるために睡眠を多く取るはずだったけど、結局途中で起きちまったんだよ。それで気まぐれに外に出たら…。くそ、俺は好きな女の子にときめく中二の男子かっつうの!あれか、これが噂の中二病か!!
 
 

「何やら百面相してるとこ悪いが…」
 
 
いきなり部屋の入り口から声が聞こえたかと思うと、壁に寄りかかって腕を組んだガイが立っていた。何だか無駄に爽やかな雰囲気を醸し出しているガイにイラついて、近くにあったクッションを顔面に命中させといた。
 
 
「ぶっ!?」
 
 
ガイに思いっ切り当たったクッションはそのまま跳ね返るように床に落下して、ガイはひっくり返るように倒れた。綺麗にひっくり返ったもんだから、腹を抱えながら笑ってしまった。ざまぁみやがれ。
 
 
「んで?何の用だよ?」
 
 
「人の顔面に思いっ切りクッションを投げた後にそれかい…?まぁいいか…。スパーダ、君をインゴベルト陛下が呼んでいるそうだ。至急城に来るようにと」
 
 
ひっくり返っていたガイは起き上がって赤くなった顔を撫でながらそう言った。てか顔面にクッションを投げても「まぁいいか」で済まされるのか…。そうか、これからはもっと硬度のあるものを投げなきゃな…。
 
 
「っ!?なんか悪寒が…。いや、それよりスパーダ、急いで準備した方がいいぞ」
 
 
ちっ、ガイの奴感づきやがったな…。まぁいいや。さっさと城に行ってやるか…。何だか嫌な予感がするぜ。昨日リリーが言っていた俺の名前の意味とかが絡んでくるような気がしてならない。いや、絶対絡んでくるに違いない。めんどくせぇ…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
謁見の間に通された俺に待っていたのは嫌な視線。何か珍しいもんでも見るかのような奇異の視線。あー、胸糞悪い!
 
 
「よくぞ来てくれた、神に仕えし正義の剣」
 
 
神に仕えし正義の剣。それは昨日リリーから聞いた俺の名前の意味。やっぱりこの名前に関しての事だったか…。本当にこういう嫌な予想だけは当たってくれるよな。そして陛下がその名前をまるで救世主のように呼ぶって事は、勘違いしてるんだろうな。俺の名前の真の意味を。そう思っていたら後ろからルークとティアが現れた。陛下はルークを見ると顔を綻ばせる。ルークはワケが分からないまま、ここに集まった面々に視線を向けている。陛下に、その隣に座るナタリア王女、確か内務大臣、ファブレ公爵、セシル少将、ゴールドバーグ、それにあの嫌味大佐。最後に俺を見る。
 
 
「昨夜、緊急会議が召集され、マルクト帝国と和平条約を締結する事で合意しました」
 
 
全員が揃った事を確認すると内務大臣は語り始める。マルクトならの親書に書いてあった救援要請を受けることにした。そしてその救助活動をルークに任せ、親善大使の役目を任命する、と。しかしルークはそれに対して猛反発する。それはそうだ。ルークは今回の事故で生きるために人を殺さなければならない事を知ってしまった。人を殺す事を恐れてしまえば、剣を取るのは恐ろしい事だろう。
 
 
「ナタリアからヴァンの話を聞いた」
 
 
だがルークが大好きなヴァンの話を持ち出すと、ルークはすぐに黙った。何でもヴァンはルークを誘拐したのではないかと疑われてるらしい。そしてルークが親善大使としてマルクトが救援要請をした場所、アクゼリュスに行ってくれれば、解放してやる、と。その言葉に自然と手に力がこもり、強く握り締める。それは交換条件のつもりだろーが、実際は脅しだ。ルークが信頼してる奴を盾にして、行くように仕向けてるだけじゃねぇか…。
 
 
「…分かった。師匠を解放してくれるなら」
 
 
ルークの声は自然と震えていた。これから来る恐怖に耐えているのか、それともヴァンを捕まえたこいつらに対しての怒りか…。ルークが渋々頷くと、陛下は安堵の息を吐き、ある譜石を持って来させた。あれが、預言…。そして近くにいたティアに命じて、それを詠ませた。
 
 
「ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を『聖なる焔の光』と称す。彼は、キムラスカ・ランバルディアを、新たな繁栄に導くだろう。ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ、鉱山の町へ向かう。そこで……。この先は欠けています」
 
 
ティアは一息つくと、顔を上げて陛下にそう言った。その預言を聞きながら、俺はやはり嫌な感じしかしない。預言の通りにすれば全て上手く行くと思い込んでるこいつらも、欠けている譜石の先も。
 
 
「スパーダよ」
 
 
預言の事について深く考えている最中、不意に陛下に呼ばれて俯いていた顔を上げた。陛下はさらに近くにいた側近に命令すると、別の譜石を取り出して俺の事を見た。
 
 
「この預言を聞いてもらえんか?」
 
 
やっぱり嫌な予感っつうものは外れないものだな…。わざわざ俺の名前を呼んで預言を聞けだなんて、考えられる事は一つしかない。つまりここにある譜石は俺について詠まれたものだって事だ…。
 
 
「…『神に仕えし正義の剣』、その正しき剣を振るい、聖なる焔の光を助け、あらゆる災いから遠ざけるであろう。其は輝かしい緑の髪と灰の瞳を持つ旅人なり…」
 
 
ちっ、ラスティの野郎…。
 
 
「ふざけやがって…」
 
 
全ては仕組まれた事だったんだな、あの野郎…!俺もあいつの手のひらの中って事かぁ!?ムカつく!あいつの事ぜってぇ張り倒す!そして約束通り内臓的なものを出してやる!裏切ってはいないが、俺に不快な思いをさせたんだ。恋人として然るべき罰は受けてもらう!!
 
 
「分かるな?預言は詠まれたのだ。預言は守られねばならない。スパーダ、お前はその正義の剣でルークをあらゆる災いから遠ざけるのだ」
 
 
陛下の言葉に苛立ちを覚えた。てか苛立ちしかねぇ。この世界の人間は何も分かっちゃいない。俺の正義の剣はお前らの私利私欲のために存在しているわけじゃない。俺の剣は本物の正義のために存在しているんだ。この剣は俺が仕えるあいつと、俺の仲間を守るために存在している。
 
 
「ちっ…」
 
 
けど俺には今「命令」が存在している。そいつのためにはルークの傍を離れるわけには行かない。あいつは俺にルークから離れるなと言った。命令した。俺が仕えるべき主はただ一人。俺が命令を聞くのは主であるあいつだけだ。俺がルークたちと共に行動するのはそのためだ。そうじゃなかったら俺はさっさとあいつの所に行ってる。
もうこの場にいる事が馬鹿馬鹿しくなった俺は、陛下に挨拶をする事なく踵を返した。こんな私利私欲のために俺の剣を利用しようとする奴らと一緒の空気を吸いたくないからな。
 
 
「貴様、陛下の御前であるぞ!」
 
 
ああ、ムカつくな。こっちは大人しく去ってやろうとしてるのによぉ?陛下だぁ?俺に取っちゃそんなのは単なる肩書きに過ぎない。俺にとって地位も名誉も役には立たない。この世界で信じられるのは地位でも名誉でもなく自分の力と仲間だけだ。ぬくぬくとしている奴には一生理解出来ないだろうけどな!
 
 
「黙れよ、うるせぇ…。俺は今苛々してんだよ。揃いも揃って勘違いしやがって…。正義の剣を馬鹿にしやがって…。俺の剣はなぁ…俺の主のために存在してるんだよ…。俺に命令できるのはただ一人の主だけだ…。お前らなんかが俺に命令出来ると思うなよ?俺を縛るのは地位でも名誉でもねぇ…。俺がルークたちと一緒にいるのはお前らのためじゃねぇんだよ!正義の剣はいつだって善悪を見るために存在してるんだよ!!」
 
 
その場にいる全員に向かってそう叫んでから扉を荒々しく開ける。見張りをしていた兵士が驚いたように肩を跳ねさせていたが構わず横を通り過ぎた。乱暴に階段を駆け下り、城の扉を開いて外に出る。そこから見える空すらも汚れて見えた。あの世界が懐かしい。転生者として疎まれながらも、信頼し合った仲間と共に前世について探し回った日々が。苦しかったけど、こんなに息苦しくはなかった。例え前世に裏切られても、現世は決して裏切らなかった。けど、この世界は吐き気がするぐらい傲慢で、預言によって全てを支配されている。気持ちが悪い…。早く主の顔を見たい。あいつの、ラスティの藍色の目を見れば、全てが浄化されるような気がした。あいつの声を聞けば、この腐りきった世界が浄化されるような気がした。だから、早く作戦を終わらせようぜ…?ラスティ…?
 
 
 
 
 

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