仲間ではない者


 
 
 
 
 
屋上で整備士を助けるためにアリエッタと戦い、勝利した俺たちの前にヴァンが現れた。ヴァンはアリエッタはダアトで査問会にかけた方が良い、と良いその場で殺される事は免れる事となった。現在、ケセドニアに向かうために船に乗っている。船内の一室で色々な会話をしているルークたちを見て、俺はとりあえず壁に背中を預けて黙っていた。
 
 
「ねぇ、スパーダ」
 
 
今までルークの傍にいて媚を売っていたアニスが、静かに俺の方へと近づいてきた。訝しげながらアニスを見下ろすと、その目は少しばかり媚びているようにも見えた。
 
 
「何だ?」
 
 
「スパーダってぇ、どっかの貴族なのぉ?」
 
 
媚びるように見上げてくるその目に不快感が込み上げてくる。ああ全く、嫌な奴に捕まった…。
 
 
「いや…今は違う…」
 
 
「今は?じゃあ昔は貴族だったの!?」
 
 
……しくった…。確かに昔は貴族だったぜ…?ただし、この世界じゃない別の世界でな…。この場で俺がこの世界の人間ではない事を知っているルークやガイならいいさ。しかしここには俺に対して何故か厳しいジェイドがいる。しかもアニスの声は大きくて、この部屋にいる全員が俺の方へと視線を向けていた。くそ、苛々する…!
 
 
「ちょっと出てくる」
 
 
妙な沈黙に耐え切れなくて部屋を飛び出すと、後ろの方からアニスが俺の事を変人呼ばわりしている声が聞こえたが、無視しておいた。
 
 
「くっそ、何だよあの雰囲気!やっぱりあのメンバーは何かと問題が多すぎだろ!せめてあいつがいればあそこまで重くならないのによ!!」
 
 
かなり苛々していたから、近くにあった甲板の壁を勢い良く殴りつけた。殴りつけた拳が少しばかり痛んだが、若干すっきりした。本当にあのメンバーは何かと重い。軍人であるジェイドは喰えない態度でのらりくらりと質問をかわすし、俺に対する警戒心が強いし…。アニスは何を考えているか分からないけどルークに媚を売ってるし…。いや、アニスが狙っているのはルークじゃなくて単なる金持ちだろうけどよ。ティアはまともでもあるけど、預言に関して何やら執着みたいなものがある。ダアトの奴だからなのかァ?昔のメンバーより厄介で、何より仲間という言葉が存在しない。そこに存在しているのは単なる義務。ティアはルークを送り届けるという使命。ジェイドはイオンをバチカルに連れて行き、ルークの力を借りて和平を成功させようという使命。アニスは義務ではないが、自分の事しか考えていないように思える。ああ、全くこのメンバーと一緒にいるのは疲れる…。
 
 
――スパーダ――
 
 
頭も痛くなってきた…。それに幻聴まで聞こえてきやがった…。リリーの声が聞こえてくるなんて…。あいつが近くにいないのに聞こえるなんて有り得ないしな…。
 
 
――スパーダ、現実逃避は止めてくれない?――
 
 
……はぁ!?本当にマジでリリーなのか!?
 
 
――…久し振りねスパーダ。どうやら苛々しているみたいね…。あなたにそんな役割を押し付けて申し訳ないけれど、頑張って――
 
 
突然聞こえたリリーの声に励まされたが、どうしてリリーの声が聞こえるか分からない。昔リリーの声を聞いた時はあいつが近くにいたからだと思ってたんだが…。
 
 
――あら、私の力がそんな小さなわけないじゃない。ラスティと距離が離れていようとも、私が意識を繋ぎたいと願えばあなたと会話する事が可能なのよ。それよりも頼みがあるのだけれど…――
 
 
ああ?俺に?あいつがか?この世界に来てから頼み事なんて珍しいんじゃねぇか?まあ今の状況も頼み事と同じようなものなんだろうけどよ。
 
 
――ふふふ、頼み事されて嬉しいのかしら?彼からの頼みと言うのは、ケセドニアで会って直接話したいことがあるから、ルークたちと別行動をとって欲しいという事なの。出来るかしら?――
 
 
リリーが言った最初の言葉に少しばかり恥ずかしくなるが、その後に言われた言葉にしわが寄る。直接話したい事?リリーを介して会話が出来るというのにそれでも直接話したいことなのか?しかし、俺がルークたちから別行動をしないとならないなんて…。てかケセドニアについたら船を乗り換えるんじゃねーのか?
 
 
――そこは問題ないわ。船には準備の時間があるから。しかもそんなに短くない。だからルークたちも何か時間を潰すためにどこかに行くはずよ。少しばかり不快な思いをするかもしれないけれど、重要な話なの――
 
 
…重要な話…。やっと俺に大事な事を言ってくれる気になったのか?あの馬鹿は…。けど、そのためにはあの嫌味大佐に離れる事を上手く誤魔化さないといけねぇのか…。腹痛ェ…。まあそれでもあいつの話を聞くためなんだ、それくらい我慢しなきゃならねーんだな。
 
 
――本当にスパーダってラスティの事が好きよね。とにかくありがとう。彼にもちゃんと報告しておくわ。スパーダがあなたのために嫌味大佐と戦うってね――
 
 
ちょ、ちょっと待てリリー!!誰がそんな事を言った!?俺はただこの世界で必要な情報を持っているあいつが話したいって言うから頑張ってあの大佐から離れるだけだ!別にあいつのためじゃねぇ!俺のためだ!!
 
 
――はいはい、安心して。ちゃんとスパーダ馬鹿の彼に言っとくから――
 
 
安心出来ねェ!!
そう思いっ切り叫んでみたもののもうリリーからの返事がない。どうやら意識を切ってしまった…。あああああああ!!あの馬鹿に余計な事を言ってなきゃいいんだがな!リリーは本当に俺たちの事をからかうのが大好きだな!畜生!!ああ、ケセドニアで会うのが億劫になるぜ…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「へぇ〜ここがケセドニアか」
 
 
船を降りて真っ先に目に入るのは見渡す限りの砂。まさに砂の街という感じのところだった。とりあえずヴァンはアリエッタをダアトの監査官に渡さないといけないらしいので、ここで別れた。こっからが問題だ。俺にとっての一番の難関はルークたちの傍から離れる事だ。鬼畜陰険嫌味大佐からどうやって離れるか…。
 
 
「あらん。この辺りには似つかわしくない、品のいいお方」
 
 
どうやって離れるかと考えていると、誰か知らない声が聞こえてきた。そちらの方を向くと一人の女がルークに近づいていた。露出の高い服を着てルークに近づいている。けど、この女どこか怪しいな…。ルークの肩に置かれる手と、近づく顔。ルークは慣れない事でたじたじになっているが、俺はただ女の動きを見ていた。
 
 
「せっかく、お美しいお顔立ちですのにそんな風に眉間にシワを寄せられては、ダ・イ・ナ・シ、ですわヨ?」
 
 
女がそう言った瞬間、ルークの懐に手が滑り込み、そこから財布を盗み取った。あー、やっぱり何か怪しいと思ってたけど…。
 
 
「きゃぁあ!アニスちゃんのルーク様が年増にぃ!」
 
 
「ごめんなさいネ、お嬢ちゃん…。お邪魔みだいだから行くわネ」
 
 
アニスの年増、という言葉に女は顔を歪めたが、すぐに元の顔に戻してすぐにルークの傍から離れた。そして何気ない感じで離れようとした女に、俺は双剣を一本抜いて突きつけた。
 
 
「取ったモノ…返してもらおうか?」
 
 
鋭い視線を向けて女を睨むと、女はすぐに顔色を変えて俺の剣から抜け出し、財布を投げた。
 
 
「ヨーク!」
 
 
女が財布を投げた先にはヨークと呼ばれた男が立っていて、俺は逃げようとしたそいつに向かって素早く剣を投げつけた。もちろん当てるつもりじゃなくて服を地面に縫いとめるように。見事に転んだヨークと呼ばれた男に駆け寄り、奪った財布を奪い返した。するとさっきの女が素早く飛び上がり、建物の上に着地した。その女の隣にはヨークとは違う男が立っていた。
 
 
「俺たち漆黒の翼を敵に回すたぁ、いい度胸だ。憶えてろよ」
 
 
俺の剣で地面に縫いとめていたはずのヨークはいつの間にか剣を抜いて逃げ出していたらしい。そいつは女の隣に立つと悔しそうな顔をしながら捨て台詞を吐いてその場から逃げ去った。
 
 
「結局何だったんだか…」
 
 
投げ出されたままの剣を回収して鞘に収めながら先程の捨て台詞を思い出した。漆黒の翼だァ?俺がその言葉の意味が分からずに首を傾げている脇で、ルークたちが何やら言い合いをしていた。どうやらあの嫌味大佐はスリに気づいていたのに無視していたそうだ。やっぱりな。
 
 
「もういいから行こうぜ」
 
 
ルークはため息を吐きながら歩き出そうとしたが、それをイオンが呼び止めた。
 
 
「すみません、キムラスカの領事館に行く前に、この街の商人ギルドの長に、挨拶だけでもしておきたいのですが…」
 
 
なんだかイオンも狙っているような気がしてならないなぁ…。イオンに弱いルークが、頼みを断れるはずがない。何だかんだで了承するはずだ…。ん…?もしかしたらこれは絶好のチャンスか…?
 
 
「あのよ、俺はそういう堅苦しそうな話が苦手だから酒場で待ってていいか?」
 
 
それとなく、なんとなくという雰囲気を出しながらそう言うと、嫌味大佐から鋭い視線を頂いた。つうか…、何で俺ばっかりこんな鋭い視線を受けなきゃならないんだ…?俺はガイと同じようにルークを探しに来ただけなのによォ……。
 
 
「分かりました」
 
 
ジェイドの鋭い視線に気づいているのかいないのか分からないけど、イオンが穏やかにそう言ってルークたちを連れて商人ギルドの長とやらの家に向かって行った。よし…、これで大佐から離れる事が出来た。あいつと直接話できるようにはなったけど…、あいつがどこにいるか分からねぇな…。
 
 
「スパーダ」
 
 
どうやってあいつに会うか考えていると、いきなり声を掛けられた。声が聞こえた方を向くと…ああ、なるほど…。
 
 
「リリーの姿で来たか」
 
 
確かにラスティの姿のままだと目立つし、もしルークたちと会ったら最悪だからな…。俺に変な疑いがかかるかもしれないしな…。
 
 
「酒場に入るのでしょう?ここじゃ目立つわ、行きましょう」
 
 
おそらく幻神で姿を変えているであろうラスティは、体を翻して酒場の中へと消えていった。あいつが直接会って話したいと言った重要な事…。今まで俺に隠していた事を話してくれるといいんだがな…。
 
 
 
 
 

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