馬鹿と煙は高い所


 
 
 
 
 
あいつ、やりたい放題して帰りやがった…。ラスティ自身じゃないけど、ヴァンの背中思いっきり蹴ってたし…。てか、俺の知らない所であいつはあんな芸当が出来るようになってやがったのか…。刀はずのリリーを実物かしてやがる。これは、本人にみっちりと聞かないといけねぇな…?
 
 
「いつもいつも彼は私たちの行く先々に現れますね」
 
 
「しかも邪魔したりしなかったり…。不思議な奴だな」
 
 
あいつが去っていった方向を見ながらジェイドとガイが呆れたようにため息をついた。そんな二人を見ながら思わず俺もため息を漏らす。本当にあいつはやりたい事をやって帰って行きやがる。
 
 
「大佐…。凍り付いてしまった整備士たちは…」
 
 
「……。先ほど彼が指を鳴らした瞬間、一人の氷が溶けました。もしかしたら彼を倒せば救えるかもしれません」
 
 
氷楼。ラスティの持つ神の能力の一つ。一瞬にして願ったものを自在に凍らせる事に出来る技。その氷はあいつが解かない限り絶対に溶ける事はない。しかしどうせあいつの事だ。気まぐれに解くに違いない。
ああもう、全てにおいてめんどくせぇ!!船は破壊するし、整備士は凍らせるし!!めんどくせぇ事ばかりしやがって!!俺たちの邪魔をするなら俺もあいつの邪魔をしていいって事だよな!?……ムカつく…。それでも絶対にあいつの邪魔は出来ない俺がムカつく…!
 
 
「スパーダ?何ブツブツ言ってんだ?」
 
 
「あぁ?何でもねーよ。それよりどうするって?」
 
 
「聞いてなかったの?ここは総長に任せて国境に戻るんだって。総長が連れ攫われた整備士と、魔導師を倒してこの人たちを助けるって」
 
 
ふうん…?なんだか言っちゃあ悪いが嘘臭いな…。それにヴァンにあいつを会わせるのは気乗りしねぇな。さっき一瞬だけ見えたヴァンの目。あれは部下の粗相を怒る目じゃなかった。ラスティの能力の一片を見て何かを企む目だった。元々あいつの事は端から信用できないんだよ。ルークの師匠かもしれないが…。
 
 
「とにかく我々は国境に戻って…」
 
 
ジェイドが俺の方を見てから歩き出そうと足を踏み出した瞬間、バタバタという足音が聞こえてきた。何事かと思って双剣に手をかけてそちらを向くと、全員凍りついたと思っていた整備士がこちらに走り寄って来ていた。
 
 
「お待ち下さい、導師イオン!」
 
 
整備士はイオンの前に立って両手を広げた。まるでここから先は通さないとでも言いたげに。そんな整備士を見てアニスは一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに冷静になってイオンを庇うように前に立った。
 
 
「イオン様に何の用ですか?それに、整備士は全員凍ったんじゃ…」
 
 
「わ、私はたまたま近くに居なかったのであの奇妙な術にかからずに済んだのです!導師様!あの男に攫われたのは我らの隊長なのです!それに、ここに凍らされている整備士も、私の同僚なのです!お願いします!どうか導師様の力でお助け下さい!」
 
 
ラスティがこいつに気づかなかった…?いや、有り得ない。あいつはこんな一般人を見逃すほど馬鹿じゃない。だとしたらわざと、か?一体何のために?こいつ一人氷楼で止めないで一体何を狙っているんだ?どうせ何も出来やしないのに…。
 
 
「隊長は……隊長は、預言を忠実に守っている敬虔なローレライ教の信者です!今年の生誕預言でも、大厄は取り除かれると詠まれたそうです。他の者たちも…。ですから…」
 
 
「わかりました」
 
 
凛としたイオンの声が聞こえてきて、俺は思わず勢い良くその声の方向に振り返った。今、この導師様は何て言った?わかりました?何だって?一体この導師様は何を分かったって?
イオンの言葉にジェイドが思わず肩に手を置く。どうやら聞き間違いではないようだ。わざわざ敵の元に飛び込むなんて余程自信のある奴か馬鹿しかいかない。ジェイドもそれが分かっているからイオンの肩に手を置いたんだ。だが、イオンはその手を優しく外すと、ジェイドを見た。
 
 
「ジェイド、預言は詠まれたのです。わかって下さい」
 
 
「しかし…」
 
 
「私もイオン様の考えに賛同します大厄は取り除かれると預言を受けた者を見殺しにしたら、預言を無視した事になるわ。それではユリア様の教えに反してしまう。それに…」
 
 
ティアはそこまで言いかけると口を閉ざした。それから先を言うつもりはないらしい。まあ今はこんな事どうでもいい。俺が一番気にしなきゃ預言の事だ。何でもかんでも預言預言預言!本当にこの世界はイカレてやがる!!
 
 
「大厄は取り除かれるって詠まれてるんだろ?なら、俺たちが行かなくったってそいつらは救われるだろ」
 
 
少しばかり苛立ちをこめてそう言ってやると、ティアは眉を少し吊り上げた。
 
 
「預言に反するつもり?預言は守られなければならないわ」
 
 
「別に反するつもりはネェよ。だから別に救われるっつってんだから、行かなくたって助かるだろうが」
 
 
「そうだぜ。師匠が助けるに決まってる」
 
 
ルークが偉そうにそう言うと、ティアがそれに対して反対意見を言ってくる。ティアは本当にヴァンの事を疑っているらしい。俺はそんな二人を見ながらイオンを横目で見る。さっきの分かりました発言から、イオンは確実に行く事を決めているみたいだな…。どうやってもコーラル城?に行くことは確実かもな…。
 
 
「ルーク、僕からもお願いします」
 
 
やっぱりイオンに弱いルークは、そう頼み込まれると折れざるを得ないらしい。結局俺たちはイオンの頼みでコーラル城へと行く事になってしまった…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ここが俺の発見された場所…?」
 
 
コーラル城についた俺たちは呆然としていた。俺の前に立つルークも呆然としたまま自分の目の前に聳え立つ廃墟と化した城を見上げていた。そう、ルークが眺めているのは廃墟。崩れ落ちてかつての美しさなど欠片も見当たらない。こんな場所で発見されたと言っても複雑な気持ちしか抱かないだろうな。
 
 
「どうだ?何か思い出さないか?」
 
 
呆然としたままのルークの隣にガイが立ち、その城を見上げながらそう問いかける。しかしルークは未だに呆然としたまま首を横に振った。
 
 
「…おかしいわね」
 
 
そんな二人の脇で、ティアがジェイドと会話をしていた。ティアはどうやらこの城が廃墟として朽ちているにも関わらず道などがしっかりしている事に疑問を感じているようだ。俺もこの城を見た瞬間にそれは思った。だが、ここにいるのは例のあいつだ。あいつがこの場所を指定したというのなら、様々な事があってもしょうがないだろう。この道だってわざと作った可能性だってゼロじゃない。
 
 
「魔物の気配がするですの…」
 
 
ルークの足元でミュウが小さく震えていた。どうやらこの廃墟の中には魔物がいるらしい。同じ魔物であるミュウだからこそ、離れていても感じられるんだろうな…。俺はもう少し近くないと感じ取ることが出来ない。
 
 
「とにかく中に入ってみようぜ」
 
 
ガイに促されて中に入ると、やはり外観と同じように中も酷く崩れていた。朽ちてかけている壁。落ちている階段。だが、やはり不自然なほどに整頓されている。これほどの廃墟ならもう少し散らかっていてもおかしくないはずだ。
 
 
「整備士さんと魔導師、どこにいるんだろう?」
 
 
廃墟の中を見渡しながら呟くように言ったアニス。その言葉にジェイドとガイも辺りを見回す。確かにいくら廃墟と言ってもこの広い城の中を片っ端から探すのは骨が折れるというものだ。が、あいつは馬鹿だ。
 
 
「だいたいは上だろ」
 
 
「上?」
 
 
ポツリと呟くように言った俺の言葉に、ルークたちが一斉にこちらを向いた。俺はその視線を見ながらにやりと笑ってシャンデリアのある天井を指差した。確信はある。むしろそこ以外に考えられない。言ったろ?あいつは馬鹿なんだよ。心底、な。
 
 
「馬鹿と煙は高い所って言うだろ?」
 
 
 
 
 

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