復讐の叫び


 
 
 
 
 
「一体彼は何者何だい?」
 
 
入り口まで一度足を運んだ俺たちは、門の前で六神将たちを見かけたため、茂みに隠れて様子を窺っていた。そして、何やらあいつが色々と話していると、シンクと呼ばれた奴が撤退の命令をしていた。あいつの言った通り撤退になったらしい。
んで、六神将が去った後に隠れていた茂みから立ち上がった。その時にガイがそう呟いた。
 
 
「ああ、あれか?あいつ変な奴だよな…」
 
 
ルークが隠れていたために固まった関節を伸ばしながら興味が無さそうに答えた。確かに今回の旅でのあいつの言動は意味が分からない。しかも理由を聞いても教えちゃくれない。何か理由があるんだろうけど、それでも不服だ。俺はあいつの騎士なんだから…。
 
 
「今まで全然知らなかったわ。あんな人がいたなんて…」
 
 
「彼の目的は謎ですね。私たちと敵対しているにも関わらず助けたり、今私たちを見つけたのにそれを報告しない…。果たして何がしたいのでしょうか…」
 
 
「イオンでも知らないのか?」
 
 
「僕も知りませんでした。彼みたいな人は」
 
 
「イオン様で知らないとなると、余程外部に漏らしたくない人物…と考えて良いのでしょうか」
 
 
外部に漏らしたくない人物…。俺がこの世界の事を知るために必要な鍵はあいつだ。あいつがこの物語の何かを掌握し、そして動かそうとしている。そして目的の為には俺たちを捕まえさせるわけにはいかない。だから見逃した…。そうなるとあいつは俺たちだけではなく、六神将も欺いているのか…。
 
 
「とにかく、魔導師については置いといて、フーブラス川に行きますか」
 
 
フーブラス川って確かカイツールに行くためには通らなきゃ行けない場所だよなぁ…。川、かぁ。渡ったことねぇから大丈夫かぁ?


「さぁさっさと行きましょう!」
 
 
にこやかに、何事もなかったかのように手を叩くジェイドにイラついたのは多分俺だけじゃないはずだ…。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
カイツールに向かうために渡っているフーブラス川。この川がまた無駄に長い。旅に慣れている俺でも疲れるくらい長い。しかも魔物も出るもんだからさらに疲れる。旅に慣れていないルークなんかはすぐにバテている。
 
 
「もうちょっとで地面が見えるはずだけど…」
 
 
ここに来るまでに色々あった…。フィールドオブフォニムスとかごちゃごちゃした説明を聞いたり(俺もわかんないから必死こいて心の中で覚えた)実演してたり、途中でルークがワガママ言ってたり…。とにかく大変だった…。
 
 
「あー、びしょびしょだぜ…。ったく」
 
 
漸く陸地に足をつけた瞬間、水を吸って重たくなった服の裾を摘み上げながらルークはそう愚痴を漏らした。まあ確かにこのメンバーの中で一番水を吸いやすそうな服を着ているのはルークだけだからな。後の奴はブーツとかそういうのを履いてるし。
 
 
「そう言いなさんな。少しでも早く帰りたいだろ?」
 
 
「そりゃそーだけど…」
 
 
ガイ、やっぱりお前はルークの扱いに慣れているよ…。
そう心の中でガイの事を褒めた瞬間、獣の気配を感じて腰につけていた双剣を一気に抜いた。すると、俺たちの頭上を大きな影が通り過ぎた。
 
 
「ライガ!?」
 
 
「後ろからも誰か来ます」
 
 
ティアが杖を構え、ジェイドがコンタミネーション現象で槍を空中から取り出す。すると草を踏む音が聞こえ、そこから女の子が一人出てきた。タルタロスで俺たちの事を襲撃してきた女の子の一人だ。
 
 
「妖獣のアリエッタ!見つかったか…」
 
 
目の前には幼獣のアリエッタ。後ろにはアリエッタが従えるライガ。この場においての逃げ道はない。完全に挟まれてしまった。
 
 
「アリエッタ!見逃してください。あなたなら、わかってくれますよね?戦争を起こしてはいけないってことを」
 
 
ティアに守られるような形になっているイオンがアリエッタの方を見て声を上げる。アリエッタはそんなイオンの事を見た後に、腕に抱いている人形に顔を押し付けて眉を下げる。
 
 
「イオン様の言うこと…アリエッタは聞いてあげたい……」
 
 
弱々しいアリエッタの声を聞いた瞬間、この場に別の気配を感じた。強い。とても強い気配だ。これはわざと隠していない。いや、きっと隠す必要がないからそうしているんだ。奴は見つけて欲しいんだ。俺に、自分の存在を。
 
 
「おらァ!!」
 
 
だから俺はその気持ちに仕方ないから応えてやる事にした。手に持っていた双剣の一本を強い気配のする方へと思いっきり投げつけた。もちろん手加減なんて言葉は俺の中に存在しない。
 
 
「ラスティ!」
 
 
アリエッタが双剣が飛んでいった方へ向かって悲鳴に似た声を上げると、茂みの中から俺の剣の峰を上手い具合に両手で挟んでいるラスティが現れた。その顔は微妙に引きつっているような気がするが、俺には何も見えていない。
 
 
「何だよ…気づかれたワケ…?」
 
 
冷や汗を流しながらもヘラヘラと笑って俺の方へと剣を投げ返したラスティは、そのまま自然の流れでアリエッタの隣へと立った。俺は投げ返された剣を受け取って構える。あいつから何も聞いていないけれど、あいつが俺と対極にあり続ける振りをするなら俺も敵対しなきゃいねェな。
 
 
「魔導師!」
 
 
「あなたは何がしたいのですか?」
 
 
誰もが武器を構え、鋭い眼差しを向けているにも関わらず、ラスティはそんな事に気づいていないかのように笑う。
 
 
「俺はアリーの手伝いっ!それ以外は特に何もしないぜ?」
 
 
「手伝いと言う事は私たちと戦うと?」
 
 
「痛いねぇ?アリーは戦うワケ?」
 
 
相変わらず胡散臭い笑みを浮かべたままのラスティが隣に立っているアリエッタへと問いかける。アリエッタはというと、その言葉に頷いて抱いている人形を強く抱き締めて顔を埋める。
 
 
「戦い…ます!だって…アリエッタのママを……殺したもん!」
 
 
小さい女の子から発せられるその殺気に、少しばかり驚く。確かに敵対している以上、誰も殺さないわけには行かないが、それでも女の兵士を殺した記憶はなかった。
 
 
「アリエッタのママは、お家を燃やされてチーグルの森に住み着いた。ママは仔共たちを…アリエッタの弟と妹を守ろうとしただけなのに……」
 
 
「まさか、ライガ・クイーンの事?でも彼女はどう見ても人間…」
 
 
「彼女は赤ん坊の時にホド戦争で両親を失い、魔物に育てられたと聞いています。その事で身につけた、魔物と会話できる能力を買われて神託の盾騎士団に入ったと…」
 
 
魔物に育てられた少女…?それだったら、もしかして俺たちの後ろにいるライガもこの少女にとっては家族なのだろうか?
 
 
「アリエッタはあなたたちを許さない!地の果てまで追いかけて………殺します!!」
 
 
アリエッタが酷く憎しみの籠もった顔で、抱いていた人形を高く掲げた。それと同時にライガが唸り、雷が地を這った。ラスティは何か複雑な表情をしていたがリリーを握った。俺もラスティと戦う覚悟を決めて双剣を強く握り締め、踏み出そうとした瞬間。突然大きな揺れが俺たちを襲い、足元がふらつく。
 
 
「…っ!?」
 
 
地面に亀裂が走った。次の瞬間には、その亀裂から紫色をした蒸気のようなものが噴き出していた。咄嗟にそれが危険なものだと悟った俺は素早くバックステップをしてそれを交わした。
  
 
「きゃっ…!」
 
 
悲鳴が聞こえてそちらを見ると、あまりにも突然の事で避け切れなかったのかアリエッタに紫の蒸気が直撃していた。すると彼女は苦しそうに呻いた後、地面に倒れこんでしまった。
 
 
「アリー!?」
 
 
ラスティはアリエッタの様子を見て危険なものだと判断したのか素早く口を鼻を塞いでいた。それのお陰かあいつは倒れずに立っていた。
 
 
「障気だわ……!」
 
 
「いけません!障気は猛毒です!」
 
 
「吸い込んだら死んじまうのか!?」
 
 
「長時間吸い込まなければ大丈夫。だけど逃げ場がないわ…」
 
 
ティアの言う通り周りを障気に囲まれ、逃げ場が全くない。同じようにラスティも逃げ場がなくてその場で口を覆っているだけだ。あいつなら何とか出来かと思ったが…、正体がわからねぇもんには対処出来ねーみたいだな…。いや、それよりも正体がバレる事を危惧してんのか?
そうしているうちに立ちこめていく障気。そろそろヤバいと思った瞬間、ティアが杖を構えて歌を歌い始めた。確か、譜歌って言ったはず。
 
 
「譜歌を歌ってどうするつもりだと……」
 
 
「待ってください、ジェイド。この譜歌は…ユリアの譜歌です!」
 
 
イオンが声を上げた瞬間、ティアの足元に大きな譜陣が現れた。その譜陣は全てを包み込むように光を発すると、周りに立ち込めていた障気を消し去った。その時、微かだけどあいつの表情が動いた気がした。
 
 
「障気が消えた…?」
 
 
「障気が持つ、固定振動と同じ振動を与えたの。でも、一時的な防御術よ。長くは持たないわ」
 
 
ティアがそう言ってそっと目配せした先にはジェイドがいた。ジェイドはその視線の意味を理解しているのか、未だに気を失って倒れているアリエッタへとゆっくり近づいた。
 
 
「何をするつもりだ…?」
 
 
ジェイドの不穏な空気を感じ取ったのか、ルークが不安そうな声でそう声をかけるが、ジェイドは何も答えずにアリエッタに近づく。そして、何もない空間から槍を取り出して振りかぶった。
 
 
「止めろ」
 
 
その瞬間、空間が重くなるような殺気が溢れ出した。俺からじゃない。あいつからだ。振り下ろされた槍を受け止めたリリー。誰よりも恐ろしい殺気を放ち、藍色の瞳を怒りに染め上げているあいつがそこにいた。
 
 
「ジェイド、僕からもお願いします。アリエッタはもともと、僕付きの導師守護役だったんです」
 
 
誰もが溢れ出す殺気の中で動けずにいると、イオンが進んで前に出てアリエッタを庇うように立った。それを見たラスティは殺気を抑えてイオンを見た。
 
 
「導師イオン…」
 
 
ラスティはどこか安心したような、困惑したような声を上げる。しかしイオンはそんなあいつを見て優しく微笑み、アリエッタを頼みます、と言ってその脇を通り過ぎた。ジェイドは諦めたように槍をしまい、その後を追っていなくなった。状況がよく分からないままのルークたちもとりあえずその後を追って去っていった。俺は、ルークたちをすぐには追わずラスティの事を見ていた。アリエッタを背負うラスティは、傍から見たら兄妹に見えるかも知れない。
 
 
「スパーダ」
 
 
凛とした、芯がしっかりとした声で呼ばれた。向けられた透き通った藍色の目は確かに俺の事を映し出していた。俺はその視線を受け止めて次の言葉を待つ。
 
 
「そう遠くないうちに、とてつもない事が起こる。その時お前はあらゆる事に置いて正しいと思った事をしろ。誰よりも公平な目を持ち、真実だけを信じ続けろ」
 
 
あいつは俺がその言葉に答える前に背中を向けて去って行ってしまった。返事をしなくても分かっている、信用している、と受け取っても良いのだろうか…?
 
 
「……間違わねーよ。もう二度と、な…」
 
 
 
 
 

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