敢えて


 
 
 
 
 
誓った。次あいつに会ったら絶対にあの顎にアッパーを決めてやるんだ。誓った相手はもちろん、あいつじゃない。あいつが行くであろう地獄に、だ…。
 
 
「てか何でここにさっきの奴らがいんだよ…」
 
 
タルタロスから脱出した後、一番近いと思われるセントビナーって言う町にやってきた所までは良かったんだが、人生はそう上手く行かないもんで、さっきいたはずの兵士が町の入り口で見張りをしていた。
 
 
「俺たちがタルタロスから下りた場所からセントビナーが一番近い町だから、休憩に立ち寄ると思ったんじゃないか?」
 
 
ガイがそう言うと、ジェイドの目がキラリと…いや、ギラリと光った。まるで獲物を見つけた動物のような何となく嫌な視線をしていた。俺はそんなジェイドを隣で見ていたため、傍から離れて少しばかり距離を取った。だってこのジェイド怖ェし…。
 
 
「おや、ガイはキムラスカ人なのにマルクトの土地勘がありますねぇ?」
 
 
「卓上旅行が趣味なんだ」
 
 
ジェイドの追求に対してあっさりとした答えを返したガイ。けどよ、ガイ。卓上旅行が趣味なんて、俺は……。
 
 
「………スパーダ、その距離は何だい…?」
 
 
「…いや、別に引いてなんかないぜ?例えお前がそんな事をしててもガイはガイだからよォ…」
 
 
一応気にしていないという言葉を言いながらも体はしっかりと後退させておく。卓上旅行が趣味な気障野郎と同類にされたくないからな…。
 
 
「なあスパーダ。卓上旅行って何だ?」
 
 
卓上旅行の意味が分からないルークが首を傾げながら素直に尋ねてくる。普段からこんなに素直な態度だったら嫌われないのにな…。じゃなくて、俺はこの質問に対してどのように反応したら良いのだろうか…?素直に答えるべきか?いや、しかし仮にもガイはルークの親友だし…。親友がそんな痛い事をやっていると知って傷つかないだろうか…?まあいい。とにかくここはありのままを伝えてみよう…。
 
 
「卓上旅行って言うのは地図を見ながら行きたい場所に行く想像…いや、妄想をするんだ」
 
 
「何で今言い直したんだい!?」
 
 
「え、妄想してるのか…?」
 
 
「ルーク!?ちょっと、後退りしないでくれ!?」
 
 
親友がそんな何ともいえない痛い趣味をしていると知ったルークは、さすがに引いたようだ。そっと距離を取り始めるルークに、ガイは慌てたように叫びながら弁明している。いや、ガイ。弁明する必要はない。事実なんだから…。
そして俺はそんな二人を視界の端に留めておきながらもとりあえず無視する事にした。
 
 
「んで?どうやって入るんだよ?」
 
 
「ガイたちはスルーなのね…」
 
 
「そうですねぇ…。私たちは顔が知られている可能性があるので迂闊に入れませんね…」
 
 
「大佐もですか…」
 
 
ルークとガイを無視していた俺にささやかなツッコミを入れるティア。しかしそれはあっさりとジェイドにも流され、ちょっと呆れたように溜息をついた。俺はそんなティアすらも無視して町の入り口を見た。あの見張りをどっかに避けるしか方法はねぇかなぁ…。
 
 
「ルークうぅぅう!?違うんだ、誤解だ!!」
 
 
「うん、わかったから離れろ…」
 
 
…………。見事に別れ話を出されて焦る彼氏と、それをウザったく思いさらりと流そうとする彼女みたいな構図になっている…。ガイは普段はかっこいいくせに、こういう時はアホだな。もっと違うやり方とかあるだろうに…。
 
 
「大佐!あれを…」
 
 
そんなカレカノコンビみたいに成り果てたルークたちを放置していると、ティアが不意に声を上げた。ティアが見ている先に目をやると、そこにはセントビナーに入ろうとしている場所が何台かいた。馬車は兵士たちに一度止められたようだけど、少し会話をするとすぐに兵士の脇を通り抜けて町の中へと入っていった。
 
 
「馬車ですか。なるほど…これなら怪しまれないですね」
 
 
顎に手を添えて頷いているジェイドを見ながら、端の方でまだ言い合いをしているルークとガイに視線を向けた。先ほどは別れ話の礼を上げたが…。どっちかというと浮気がバレた彼氏みたいだ、と直しておこう。よし、どうやらもう一台馬車がこちらに近づいているみたいだし、ここはいっちょやりますか!
 
 
「おい、ガイ!」
 
 
さっきからずっとうざったいくらいルークに付き纏っていたガイの首根っこを掴み、勢い良く引っ張ると、俺たちの近くに来ていた馬車の前へと突き出した。もちろん手加減はない。
 
 
「轢かれろ!」
 
 
半分冗談で半分本気でそう声を上げると、転がったガイからえぇっ!?と反応された。目を見開いて俺を見ていたようだが、俺は見て見ぬ振りをして視線を場所の人物へと向けていた。
 
 
「カーティス大佐!?」
 
 
馬車を引いていた人物はどうやらジェイドと面識があるようで、二人でなにやら話をしていた。俺たちはその様子を見ていたので、ガイはもちろん放置だ。
 
 
「スパーダ、最初と性格違うわね…」
 
 
「誰かのせいでな」
 
 
誰か、はもちろん分かっていただけるだろう。俺と共に旅をしていたあいつのせいだ。あいつの濃いボケに付き合っていた俺はいつの間にかツッコミの領域を越え、ボケも出来るようになってしまったらしい。全く何てことだ。
 
 
「皆さん、ローズ夫人が乗せて下さるそうなので行きますよ」
 
 
少しばかり昔の事を思い出していたら、いつの間にか話が纏まったらしい。ルークたちがいそいそと乗り込んでいたので、俺も慌てて場所の中へと乗り込んだ。ゆっくりと動き出す馬車に、俺たちは緊張しながらも息を潜めた。じゃないとバレちまうかも知れないし…。
 
 
「止まれ」
 
 
馬車の外から冷静に兵士の声が聞こえてきて、みんなの顔に緊張が走る。
 
 
「エンゲーブの者です」
 
 
「連絡は受けている。通れ」
 
 
ガシャンと金属の音がなって、全員が安心したように嘆息した瞬間、嫌ぁな声が聞こえた。
 
 
「不審人物は来てるか?」
 
 
あいつだよあいつ。俺がツッコミするきっかけを作り、なおかつボケにまで走らせた人物。
 
 
「はっ、ラスティ様!今の所異常ありません!」
 
 
「この馬車はどこから?」
 
 
「エンゲーブから食料を運びに来たモノです」
 
 
「なるほど…。ご苦労様、悪かった引き止めて」
 
 
ローズ夫人が返事して、馬車が走り出す。あいつのくせに、本当に俺たちに気付いていないのか…?いや、まさか嘘だろ?あいつは気配には敏感だ。仮にも昔は軍に所属して最前線で戦っていた奴だ。俺やジェイドの気配が気付けなくても、ルークなんかの拙い気配は察せるはずだ。
 
 
「ああそれと…」
 
 
何気ない、世間話をするような陽気な声。


「帰る時は道中気をつけて。どうやら色々と危ないらしいので」
 
 
あいつの声色は、確かにこちらを認知していた。が、あえて逃がしてくれるらしい。やっぱりな。あいつが俺たちの気配に気付かない事自体ありえないんだ。俺と奴は長い間一緒に旅をしているし。
 
 
「大佐、彼は…」
 
 
「ええ、確実にこちらに気づいて言っていますね…」
 
 
馬車はあいつの横を通り抜けてセントビナーの中へと進んで行く。大きな広場まで行くとローズ夫人が馬車を止めて俺たちを下ろした。運んでくれた事に感謝しながら分かれると、ジェイドは足を止めた。
 
 
「とりあえず彼は置いといて、マルクト軍基地に行きましょう」
 
 
俺たちの方を振り返ってそう言ったジェイド。この場の流れからいうとマルクト基地に行って何か話し合いをするんだろうけど、俺は正直気乗りしない。軍には良い思い出がないし…。
 
 
「俺、パスしていいか?」
 
 
小さく挙手をしてそう言うと、ジェイドの視線がこちらへと向いた。真っ赤な、血のような瞳が俺の事を探るように細められる。
 
 
「おや、何かあるのですか?」
 
 
俺が旅したメンバーの中にはこう言った疑いの視線を向ける奴がいなかった成果、この視線は慣れねぇ…。いや、あいつは常に探りを入れていたみてぇだけど、ここまで直接的ではなかったし。
 
 
「堅苦しい話とか苦手なんだよ…」
 
 
「そうなんですか?私はてっきり何かやらかしたのかと思いましたよ」
 
 
うう、何か追い詰められているような気がするのは、俺の間違いか…?いや、この陰険鬼畜眼鏡大佐はわざとだ。俺の事を虐めて楽しんでいるに違いない!この陰険鬼畜眼鏡大佐め!!
 
 
「まあまあ旦那。行きたくない奴を無理矢理連れてくのは感心しないぜ?」
 
 
俺が困っていると瞬時に察してくれたのか、ガイがいい感じでフォローに入ってくれた。その事に感謝をしながらホッと息を吐く。
 
 
「ふぅ、しょうがないですね。私たちが戻ってくるまで変な事しないで下さいよ?」
 
 
「了解ー」
 
 
ガイの言葉に納得したのか仕方がないと諦めたのかは分からないが、とりあえず行かなくてもいいようだ。代わりにちょっと注意をされたが、まあそのくらい問題ない。騒ぎを起こすつもりもないし。わざとらしい敬礼をジェイドにした後に、踵を返してこの町にある大きな樹の方へと歩き出した。
 
 
 
 
 

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