舞台裏


 
 
 
 
 
いやぁ!本当にあの時のスパーダはヤバかったぜ!目が特にヤバかったね!あの目は俺の事を殺すつもりだったんだよ!まるで地獄からやって来た使者のような禍々しさが合ったからな!ん?例えが分かりづらい?んじゃあ目に殺すって書いてあると思えばいいさ。本当に、あれは怖かった…!
 
 
「ラスティ…なんで退いちゃった……ですか…?」
 
 
先ほどまで抱えていたアリエッタを床に下ろすと、アリエッタは俺の服の裾を掴んで泣きそうな声で問いかけてきた。上目遣いでなおかつ涙目のアリエッタは本当に可愛かった。少女趣味じゃねーけど、アリーは本当に可愛いと言える。
 
 
「あのままでは危ないからだよ。イオン様は重要な人だから殺されるなんてことないしな」
 
 
人形を強く抱き締めながら涙を耐えるように俯いたアリエッタの頭を優しく撫でながらそう言うと、俺の隣に立っているリグレットが不服そうながらも頷いた。せっかく導師を奪還できたというのに、再び手放さなければならないのは痛いだろうな…。
 
 
「今はシンクとラルゴに合流するのが先だ。行くぞ」
 
 
苛々を抑え込もうと奮闘しているようだけど、どうもそれは抑え切れていないようで、どこかピリピリとした気配を放っていた。そんなピリピリした気配を放ちながら奥へと進んで行くリグレットの背中を見つめていたら、隣にいたアリエッタが再び俺の服の裾を掴んでこちらを見上げてきた。
 
 
「そういえば……あの緑髪の人と…知り合い…ですか…?」
 
 
うーん、純粋ゆえに答えづらい質問だな…。別にアリエッタはそういう情報を知ったからって特に何かを起こすわけじゃないから教えても構わないけど…。そういう情報がどこから漏れ出すか分かったもんじゃないからなぁ…。これでもしもスパーダの事がヴァンの耳にでも入ったら、それこそ利用されそうだし…。人質にとって俺の行動を制限したり…。拘束されるのは嫌いだが、好きな奴が苦しむのを見るのはもっと嫌いだ。ここは、アリエッタには悪いけど内緒だな…。
 
 
「いんや?タルタロスで会ったことがあるだけだ。知り合いじゃないよ」
 
 
生憎嘘を吐くのは得意なんでね。
 
 
「そう…ですか…」
 
 
アリエッタは一応納得したような返事を返したものの、なんとも腑に落ちないという表情をして人形に顔を埋めていた。なんつーか、恋する乙女は最強よ、なんて言ってみちゃったり?
 
 
「それより、早く行こうぜ?リグに怒られちまう」
 
 
アリエッタの小さな手を握って軽く引くと、アリエッタは大人しく着いて来てくれた。彼女の後ろにいるお友達も黙って俺に着いて来てくれた。よしよし、偉いぞ。
 
 
「ラスティ」
 
 
リグレットは時間に煩いからなぁ…。怒られずに済むかな?あ、でもこっちにはアリエッタもいるから大丈夫か!なんだかんだでアリエッタには甘いし!
なんて事を考えていたら、暗がりから俺を呼ぶ声が聞こえた。暗がりのせいで顔は見えないけれど、声で分かる。
 
 
「どうしたの?アッ君?」
 
 
にやりと嫌味な笑みを浮かべてやると、暗がりから剣が飛んできたのでそれを回避しながらアリエッタにリグレットの所に行くように指示した。アリエッタはそれに頷いて友達と一緒にリグレットの元へと駆け出して行った。というか、アリエッタに気を配ってたから気付くのが遅れたけどさ、アッ君のツッコミに磨きがかかっている気がする…!
 
 
「さすがアッ君。お前はもう俺を超えるツッコミを手に入れたんだな…。俺、感激して前が見えないぜ…」
 
 
涙を拭うような真似をしながらチラリとアッ君を見ると、こちらを冷たい視線を向けていた。その視線はあまりにも酷いぜ…?俺はいつだって本気なのに!真面目なのに!ギャグに対して!!
 
 
「冗談は顔だけにしろ」
 
 
「この不良息子が!」
 
 
「うぐっ!?」
 
 
あまりにも失礼な事を吐き出したアッ君に対して、俺は高速で上段周り蹴りを側頭部にヒットさせてやった。全く失礼な奴だ!俺は顔だけはいいんだぞ!
 
 
「……自分で言ってて辛いわ……」
 
 
とりあえず自分の発言は無視しておいて、深呼吸をしてから地面に恋しているアッ君の首根っこを掴みあげて自分の目の前に持ち上げる。
 
 
「さて?俺に一体何の用?アリーとの時間を邪魔するって事は余程大事な事なんだろうなぁ?下らない事だったら、鳩尾に入れるぞ?」
 
 
にっこりと笑いながら拳を前に構えると、アッ君はそれを見て勢い良く俺の手から離れて立ち上がった。ちっ、つまらん反応だ!弄りがいのない男だ!
 
 
「コーラル城を知ってるか?カイツールの近くにある」
 
 
「コーラル城?もしかしてあの打ち捨てられたような城か?」
 
 
「知ってるな。そこでお前に頼みがある。シンクとディストにはもう頼んであるんだが、あの屑を連れてきて欲しい」
 
 
アッ君はどうも正確がひん曲がっているのか、ルークの事を屑と呼びたがる。まあアッ君にしてみれば自分の居場所を奪い、のうのうと生きている自分もどきなんだろうけど…。俺はあまりその表現を良しとしていない。それに、頼み事をしたいのなら、それ相応の態度を取ってもらわないと?
 
 
「手伝って下さい、だろ?」
 
 
にやりと笑いながらそう言う。ここで注意なのは別に俺が普通の思考を持っている事だ。別に相手を屈服させる事に喜びを感じているわけじゃないからな!跪けとか言ってないからな!ここ、重要!
 
 
「なっ!?何で俺がっ」
 
 
って言うのはお見通し。この手の人間…まあ上の立場にいる人間って言うのは自分から物事を頼むのを嫌いな傾向にある。特にアッ君は元々貴族だったのもあるし…。それでも、俺にとって地位なんてあってもなくても変わらないものだ。どれだけ権力を振りかざそうとも、俺には関係ないね。
 
 
「んじゃあ言い改めろ」
 
 
何かはお前が一番よくわかるだろ?
そういう意味合いを込めて睨みつけると、アッ君は苦い顔をして舌打ちをした。アッ君にとってルークの名前を呼ぶというのはあまり心地のいいことではない事は百も承知だ。でも、こちらも譲れないものがある。
 
 
「手伝わないぞ?」
 
 
にやりとニヒルな笑みを浮かべると、アッ君は渋々ながらもルークを連れてきてくれ、と言い直した。本当に、このアッ君はまるで素直じゃない!こんなんじゃモテないぞ、アッ君!
 
 
「初めっからそう言えばいいんだよ」
 
 
ニヒルな笑みを止めてふっと顔を緩めると、アッ君はぷいと視線を逸らしてまたもや暗闇の中へと解けるように消えて行ってしまった。六神将の服装が黒いせいもあってアッ君の姿はすぐに見えなくなってしまった。本当に………、アッ君はツンデレだな!!
 
 
「さぁて、どうしようかなぁー」
 
 
多分この調子だとタルタロスの近隣にあるセントビナーは神託の盾によって封鎖されてそうだし…。本当はそんな事をすればマルクト軍に批判されるんだけどぉ…、批判されても構わそうな人間たちだからするんだろうな…。俺としては町を封鎖しないで穏便な方法を取りたいんだけど…、六神将って本当に血気盛んで嫌になるねぇ…。
 
 
――セントビナーに行くって事はスパーダもいるのよね?――
 
 
まあそう言う事だろうな。じゃないと行く意味ないだろうし。
 
 
――なら彼らの障害になるじゃない。どうするつもり?明らかにタルタロスの方が早く着く――
 
 
そこは参謀長のシンクがいるさ。あいつの事だから長い間留まっても意味がない事ぐらいわかるはずだ。
 
 
――それは信頼なのかしら?それとも…――
 
 
さあね?どっちだと思う?
 
 
――……――
 
 
どちらにせよ、俺にとって大事なモノは仲間って事さ。
 
 
――らしいような、らしくないようなセリフね…――
 
 
そうかもしれないな。
よっし、スパーダたちを援護するために俺も一肌脱ぎますか!ついでにあの時に会った痛い奴…、確かガイ様を弄りに行こう!
 
 
――可哀想、目をつけられて…――
 
 
哀れと思っても手遅れだ。俺は弄る奴はトコトン弄る!これが俺のモットーだ!
あ、あとディストもからかいに行こーっと!
 
 
 
 
 

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