奪還と秘密主義者


 
 
 
 
 
毎回思うが、あいつは隠し事をするのが好きだ。本人にその事を言ったら否定されるかも知れないけれど、絶対あいつは隠し事をする。俺がどんなにそれを嫌っていたとしてもしてくるんだ、全く面白くない。
 
 
「な、なぁティア。何でスパーダはあんなに怒ってるんだ…?」
 
 
「さ、さぁ…?」
 
 
あー!本当に苛々するな!今度会ったら秘密を言ってもらうだけじゃなくてフルボッコにしてからサイクロンをかまして、さらにサンダーブレードも落としてやる!
 
 
「はいそこ、不吉な事を考えないで下さい」
 
 
苛々から不吉な事ばかりを考えていた俺の脳内を読んだかのようなジェイドは、俺の頭に軽くチョップを当てて溜息をついた。ぽすっという軽いものだったが、俺が正気に戻るのはそれで十分だった。
 
 
「俺とした事が…」
 
 
「はぁ、危ない事考えてたのかよ…」
 
 
「サイクロンじゃなくてインディグネイションの方が殺傷力が…」
 
 
「なんか悪化してる!?」
 
 
ルークが後退りをして俺から距離を取るが、俺はそれを無視して黒い笑みを零す。そうだ。あいつにはインディグネイションの方が合ってるに決まってる。あいつはなんだかんだで強いんだからそれぐらいで死にはしないだろ。
 
 
「ですから、危険な思考は捨てて下さい。それとそろそろ左舷ハッチですよ」
 
 
タルタロスの中を進んでいくと度々現れる兵士に邪魔されそうになるが、そのたび苛々が溜まっている俺が優しく丁寧に回し蹴りで沈めてやっている。蹴り倒したまま放置している兵士に向けてルークが哀れみの視線を送っていたなんて今の俺には全く気がつかないことだ。左舷ハッチまで来るとジェイドは一旦足を止め、窓から外の様子を覗く。外には両方から兵士に挟まれ、顔を真っ青にしたイオンと、金髪の女が偉そうに立っていた。あいつは確かブリッジで俺たちの事を生かしておくように言っていた奴だ…。ラスティと同じって事はあの女も六神将か…。
 
 
「敵はタルタロスに乗るためにここから入ってきます。その隙を突きましょう」
 
 
だから兵士をどうにかして下さい、と頼まれたので、腰に挿している双剣に手を添えて頷いた。兵士に双剣を使うつもりは無い。この剣はあの六神将と戦うためだ。
兵士の声が聞こえて、ハッチが音を立て始める。開く…。3、2、1…。
 
 
「おらぁっ!」
 
 
ハッチが開き、兵士がこちらの方へと近づこうとした瞬間、物陰から一気に飛び出して兵士の顎を勢い良く蹴り上げ、階段から転がり落とす。いきなり落ちて来た兵士に動揺した空気になった外側の気配ににやりと笑って、階段を駆け下りタルタロスの外へと飛び出す。下の方には銃をこちらに構え引き金を引こうとしている女。俺はその引き金が引かれて銃弾が飛んでくる直前に跳躍し、女へと双剣を振り下ろした。しかし、それは目の前にある銃によって防がれた。二丁の銃にはしっかりとした装備がされていて、防御力もそれなりにあるらしい。
 
 
「イオンを返してもらうっ!」
 
 
いくら相手がそれなりの使い手で、沢山の経験を積んでいようとも力の差では敵わない。ギリギリと俺が有利に押し合いしていると、ジェイドが譜術を相手に当てようとする。が、その前に譜術に気付いたのか、押し合いしていた力を緩められ、その場から一気に飛び退いていた。しかし俺はその飛び退いた隙を突いてすぐさま双剣を喉元へと突きつけた。すると相手は息を呑み、顔を歪めた。
 
 
「今です、ティア!」
 
 
ジェイドがティアの名前を呼んだ瞬間、剣を突きつけている女の気配が揺らぎ、目も動揺を映し出した。
 
 
「ティア・グランツか!?」
 
 
「リグレット教官!?」
 
 
どうやら二人は知り合いだったらしく双方に動揺が走る。でも、この緊迫とした状況下でそんな事をやっていられるか?
なんて暢気な事を考えていたら、雷が唸るような音が聞こえてその場から素早く転がった。俺が転がってその場から離れた瞬間、俺がさっきまでいた場所に雷が落ち、草が焦げた。体勢を整えて立ち上がってから周りを見ると、タルタロスの方に女の子が一人立っていた。魔物と共に立っているその子は人形を力強く抱き締め、俯いている。
 
 
「よくやったわ、アリエッタ。彼らを拘束して」
 
 
女の子のせいで一気に形勢逆転。さあて、どうすっかなぁ…。ルークは兵士に囲まれて身動き取れないし、ここでルークに死なれたら困るジェイドやティアももちろん動けない。あ?俺?俺ももちろん無理に決まってるだろ。ルークを探しに来た俺がルークを見捨ててどうすんだよ。
そんな時、不意にリグレットと呼ばれていた女が空を、正確にはタルタロスの上空を見上げた。その瞬間、リグレットはその場から一気に離れ、その離れた場所へと一つの影が舞い降り、拘束されていたイオンを素早く抱えてこちらへと走り寄ってきた。
 
 
「ガイ様華麗に参上!」
 
 
…………空気が一瞬だけ固まった気がした。俺はここでツッコミを入れるべきか…、それともそっとしておくか…。ラスティだったら確実に弄りに行くことだろう。俺もあいつの影響を受けすぎたせいか、時々ボケに走る傾向があるらしい…。知りたくもない事実だった…。
 
 
「ガイっ!?」
 
 
どこか声が掛けづらいような微妙な雰囲気になっていたこの場を何とかしてくれたのは空気を読まないルークだった。ナイスだルーク!今だけお前を褒め称えたいぜ!そしてガイの登場により隙を作ってしまったアリエッタと呼ばれた女の子はジェイドに拘束されていた。
 
 
「さあ、武器を捨てて中に戻って下さい」
 
 
アリエッタに槍を突きつけて拘束しているジェイドを見ていると、どことなくロリコンに見えるのは俺の目の錯覚だろうか…。呆れたままその光景を眺めていたら、。不意に馴染み深い気配が漂ってきて、素早くその気配の方を見る。そこには…。
 
 
「俺の癒やしに何してくれてんじゃー!!サンダーブレード!」
 
 
なんとも情けないような叫び声が聞こえたと同時に、ジェイドとアリエッタが立っていた場所にサンダーブレードが落ちる。ジェイドは捕まえていた手を離し、横に転がる事でその攻撃を回避した。普通だとアリエッタも巻き込まれるが、この世界はどうやら面白い仕組みがあるらしく、仲間だと決めた人間には譜術が当たらないんだと。
 
 
「おい、そこの痛い奴!!」
 
 
タルタロスの上の方からガイ様より華麗に降りてきたあいつは着地した瞬間にガイを指差して思いっきり叫んだ。周りにいるメンバーが笑いを堪えていたことを書いておこう。
 
 
「ガイ様だかゲイ様だから知らねえけど、俺の癒やしを苛めるんじゃねーよ!」
 
 
ガイは前半部分を聞いた時点で瀕死だが、ラスティは普通に無視していた。そしてラスティの台詞が嬉しかったのか良く分からないが、アリエッタが涙を耐えた目であいつを見上げていた。するとあいつはアリエッタの頭を優しく撫でた後にその小さな体を抱き締めていた。
………。
………………。
……………………ほぉ…………?
 
 
「覚悟は出来てんだろうなァ…?」
 
 
低く低く唸るような声を出しながら双剣を構える。不良時代の殺気が漏れ出していようとも関係ない。今の俺の脳内を占めているのは目の前にいるこいつを叩き斬る!
 
 
「う!?や、やべぇって!!退散だっ!」
 
 
俺の声から何を考えているのか感じ取ったラスティは、顔を一気に青褪めさせた後、抱き締めていたアリエッタをすぐさま小脇に抱え、もう片方の空いた手でリグレットの手を掴むと、一気にタルタロスへと駆け出して行った。
………畜生、あの野郎…!
 
 
「一体彼は何者かしら…」
 
 
ティアが呆れた視線を向ける中、ガイの視線は一人だけ地面に描かれた『の』の字に向けられていたとさ…。
 
 
 
 
 
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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