束縛嫌いの事情


 
 
 
 
 
目の前の状況は最悪だ。ルークは黒獅子ラルゴっておっさんに捕まってるし、ジェイドはなんかの機械のせいで譜術が使えないし…。
え!?話飛びすぎ?しょうがないだろ!諸事情だっ!え?経路を教えろ?
んじゃ簡単に説明すると、突然ファブレ邸に乗り込んできたティアって奴と、ルークがどこかに飛ばされちまったところから始まるんだけどよぉ。それで、とりあえずどこかに行ってしまったルークを探すためにガイと共に二手に分かれて探す事にしたんだ。もちろん他の奴らもキムラスカ側の方を探してるけど、マルクトと仲悪いから公に捜索できないから俺たち二人だけがとりあえずマルクト側を捜索してたわけ。それで、俺が偶々よったエンゲーブってところで漸くルークと思われる情報を手に入れることに成功。チーグルの森とやらに向かったらしいから俺も追いかけるように行ったんだよ。チーグルの森でルークと出会うことには成功したんだけど、その後にジェイドが俺たちの事を捕まえてタルタロスだか言う乗り物に無理矢理乗せられたんだよ。何か和平?とかがあるらしく、公爵の息子であるルークに力を貸して欲しいとか何とか…。んで、バチカルまで乗せてやるって話だったんだが、その途中で乱入者が現れて、その事にビビッたルークが扉の外に出た瞬間にさっきのラルゴっておっさんに捕まったわけ。んで、そのラルゴがジェイドに向かって何か箱みたいな機械を投げた瞬間ジェイドが弱くなって…。とまあこんな感じだ!省きまくってるけど許せ!
しかし、本当にこの状況はまずい。ジェイドは弱くなっちまったらしいし、ルークはまだ動けずに固まっている。どうすればいいか見ていると、後ろの方から微かに歌声が聞こえてきた。この歌は、ティアか!
 
 
「ぐっ!?」
 
 
ティアが歌い終わると同時に術が発動し、ナイトメアがラルゴを襲う。その巨体が体勢を崩した瞬間を狙って、ジェイドが叫ぶ。
 
 
「ミュウ!天井に第五音素を!」
 
 
ジェイドの声にハッとしたミュウが小さな体から大きな火を天上に向かって噴き出した。どういう原理か分からないけど、周りが一瞬にして光に包まれ、視界が不自由になる。
 
 
「アニス!イオン様を連れて逃げて下さい!」
 
 
「はいっ!」
 
 
光によって視界が上手く利かない状態になっているラルゴの脇を、アニスがイオンの手を取って走り抜ける。そして未だに視界が利いていないラルゴに向かってジェイドは走り出し、その脇腹を槍で貫いた。その時、壁に張り付くようにして座っていたルークが翡翠の目を大きく見開いていた。その顔から血の気が失せ、恐怖からか瞳は不安定に揺れていた。ルークは、誘拐されてから一度も外に出た事がない。人が殺される場面なんて、全く知らないだろう…。ルークを見ながらそっと目を細めると、不意に声が聞こえてきた。
 
 
「いやあ、素晴らしい!」
 
 
パチパチと拍手の音が聞こえてきてルークから視線を外してそちらを見ると、黒いコートを着た男が立っていた。顔はフードを深く被っていて見えないが、唯一見える口元は弧を描いている。しかし…この声…。
 
 
「誰ですか?」
 
 
ジェイドが血に塗れたままの槍を男に向けると、男は心底楽しそうに口角を上げ、両手を上に上げて降参するようなポーズをとった。そんな男の行動にジェイドは鋭い目を向けると、男はさらに楽しそうにこうさーんと笑った。
 
 
「そう警戒しなさんな。死霊使いジェイドさん。とりあえず話をしましょうよ」
 
 
カツカツと近づいてくる黒づくめの男。やっぱりその声には聞き覚えがあった。俺がこの世界に来てから触れた人物はルークを初めとするここのメンバーとファブレに関する人物だけ。だとすると、こいつは確実に…。
 
 
「先程の攻撃!何の躊躇いもなく、また正確な攻撃だった!敵ながら感心してしまった!しかし、自惚れてはいかんなぁ!」
 
 
近づいてきていた男はにやりと笑みを濃くすると一気に踏み出してきた。その手に武器はないが、奴の事だ。油断は出来ない。
 
 
「自殺行為ですか?」
 
 
ジェイドが槍を構え、鋭く男に向かって突き出す。しかし男はそれを予想していたのだろう、簡単にその槍の腹を右手で掴むと、左手に拳を作った。ここであえて武器を出さないもの奴らしい。
 
 
「大佐!」
 
 
ティアが叫ぶと同時に、俺は双剣を手に一気に走り出していた。ムカつく奴だが今ここで俺の何も言ってこないところを何か考えてるに違いない。だから俺は俺の思う通りに行動させてもらうっ!
目をカッと開いてからその左手を切り落とす勢いで剣を振るう。だが、剣は奴を掠りもせず空気だけを切り裂いた。相手の方を見るとバックステップで後ろに下がり、楽しそうに口角を上げていた。
 
 
「なかなかやるなぁ」
 
 
にやりと笑った男はそう言うと被っていたフードをずり下ろした。黒いフードの下から現れたのは血を吸ったような深紅の髪と、深海のように澄み切った藍色の瞳。そして相手を挑発するような不敵な笑みだった。そう、俺が探していた相手ラスティが目の前にいたのだ。
 
 
「あなたは…」
 
 
ジェイドは目を見開いてラスティを見ていた。その視線は奴の頭に向けられていた。深紅の髪に…。確かガイに聞いたことがある。赤い髪というのはバチカルの王族の証だと。だからファブレ公爵も、その奥さんも赤い髪をしている。もちろんルークも。
ジェイドはそんなラスティを見つめながらも一定の距離を保ったまま槍を構える。それを見たラスティは心底楽しそうな笑みを浮かべると、ピエロのように恭しいお辞儀をした。
 
 
「お初にお目にかかります。俺はラスティ。六神将補佐官で魔導師ラスティと呼ばれてます。どうぞよろしく」
 
 
顔を上げた瞬間に細められる藍色の瞳。この瞳の色だけは王族の証とは違っている。王族の人間はみんな赤い髪に緑の目を持って生まれてくるらしい。だがこいつの目の色は藍色。少しばかり違っている。
 
 
「六神将補佐官…ラスティ…。初めて聞きましたが?」
 
 
「そりゃあそうだ。俺は二週間前に就任したばかりだからな。外部に情報が漏れないようにしてたらしいし…」
 
 
……こいつにしては珍しい事を聞いた気がする。拘束とかされるのが大嫌いなこいつが軍隊に所属してるなんて…。けど、その表情を見るとなかなか不服らしい。まあ拘束嫌いなこいつにしては二週間良くやったんだろうけどよ。
 
 
「二週間我慢した苛々を発散していたんだが…。どうやらイオン様は別の場所に行っちまったみたいだし…」
 
 
「逃がすと思いますか?」
 
 
「おいおい、賢い選択しようぜ?言っとくがいくら俺の視界を遮ったとしてもラルゴのように簡単じゃないぜ?それに、力を封印されてるお前なんて相手にならないね」
 
 
腕を組みながら目を細めるラスティの表情は本当にやる気だった。もしもここでジェイドが仕掛けようものならリリーで叩ききられるのがオチだ。どうするのかと思ってジェイドを見ていると、俺と同じようにティアもジェイドの事を見ていた。ジェイドも考えているのか黙ったままだったが、ゆっくりと手に持っていた槍を消した。
 
 
「賢い選択だな、死霊使い殿」
 
 
ジェイドはラスティの言葉に顔を一瞬歪めるが、それもすぐにいつも通りの笑顔に変わり、ルークとティアを連れてあいつの横を通り過ぎていった。俺も俺に倣うようにラスティの横を通り抜けると…。
 
 
「無事だったみたいだな、スパーダ君」
 
 
さっきまでとは打って変わって優しい笑みを浮かべたラスティが俺の事を見ていた。俺はその笑顔に一旦足を止め、横目でその顔を睨み付けた。するときょとんとした表情をした後に苦笑を返された。
 
 
「これはどういうことかきっちり説明してくれんのか?」
 
 
「うーん、その顔は怖いぜ、マイスイートハニー!いつか必ず説明するからさ、その時まで待っててよ!」
 
 
お茶目のようにウインクを決めた後に、周りの景色が霞み始める。その手にリリーはないが、こいつは今幻神を使いやがった…!傍に倒れていたラルゴの体も徐々に見えなくなって、掻き消えた。幻神は視界を騙す技だから実際には消えたわけじゃない。だけど、俺には幻神を破るほどの力はないし、視界を騙されてしまった以上俺はあいつを見つけることは出来ない。
 
 
「ちっ!」
 
 
完全に見えなくなったラスティに向けて舌打ちした後、すぐ傍にあった階段を駆け上がってルークたちを追いかける。甲板に出るとすぐに発見する事が出来た。ルークたちに駆け寄りながら先程の事を考えていた。
束縛される事が大嫌いなあいつが大人しく六神将補佐官とか言うのに納まっている。あいつの力があればそれぐらいの地位があっても問題ないが、問題なのはそこじゃなくてあいつが大人しく誰かに使われているって事だ。つまりこれは、何かあるって事だ。
 
 
「絶対聞き出してやる」
 
 
苛立ちを込めてそう吐き出すと共に、魔物が目の前に現れた。鞘に収まっていた双剣を抜いて魔物へと切りかかる。いくらあいつに事情があろうとも、俺に隠し事は許さねぇ!絶対ボコボコにして聞き出してやるっ!!
 
 
 
 
 

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -