聖なる焔の光


 
 
 
 
 
あいつと再会したのは本当に久しぶりだった。普段の俺はというと、海軍の仕事とかでなかなか休みを取れない。あいつの方もギルドで働いていてそれなりに忙しいらしい。特にあいつはギルド内でも評判が良く、仕事が沢山回ってくるらしい。断れない事もないらしいがきっちりとこなしているらしい。らしいようならしくないような事だ。
そんなあいつと会ったのは、あいつから直々に会って話したい事があると連絡をもらったからだった。あいつの趣味なのか少しばかりお洒落なオープンテラスのある場所で紅茶を飲んでいた。紅茶を飲む奴は悔しい事に似合っていた。しかし、紅茶を飲んでいるあいつの表情はいつものような明るいおちゃらけた感じではなく、それなりに真剣さを滲ませているものだった。そして俺があいつの話を聞いている最中、急におかしな気配を感じた。それから急に金属音が頭の中に鳴り響いて、頭が割れるかと思うくらいの痛みに呻いているとあいつが俺の方に手を伸ばしていた。俺は、確かにその手を取ったはずだったんだ。この右手に感じていた温もりを確かに覚えている。だが、意識を失って次に目が覚めたときにはそこにあいつはいなかった。何も握っていない右手が空しく思えた。
 
 
「まあラスティならどこかで巧くやってるから心配ないけど、合流したいよなぁ…」
 
 
空しくなったとは言え、別にそこまで絶望とかしているわけではない。むしろあいつならしぶとく生き残っているだろうから探しに行かなければという思いが湧いてきた。まああいつは強いからそんなに心配はしていない。あいつはまずリリーを持っている。後から聞いた話だが、リリーを持っているラスティは今でも天術(こちらで言う譜術)を今でも使えるらしい。ラスティが術を使えることになんら不審な点はない。しかし、俺は天術の力を失ったはずだった。なのに俺はこの世界に来た時から技を使えるようになっていた。これが一体どういう事なのか、あいつをとっ捕まえて聞きたい。
 
 
「スパーダ!」
 
 
そして今現在の俺はというと、異世界にきっちり馴染んでしまいました。
 
 
「はいはい、何だよルーク」
 
 
これは良い事なのか悪い事なのか分からないが、俺はファブレ公爵邸の庭に落下したらしい。そんで、そんな俺を偶然見つけた使用人のガイに拾われ、事情を全て話した上で居候させてもらっている。何とか居場所を確保する事が出来て良かったが、ここの家の息子であるルークは公爵邸から出してもらった事がないらしく、酷く我が儘だ。それに外の事に関して無知でもある。ルークは過去に誘拐された事があったらしくその誘拐のせいで記憶喪失になったそうだ。それからというものルークは公爵邸に囲われ、外に出さないようにされているらしい。
……あいつなら、こんな状況をよく思わないんだろうな…。あいつは拘束される事が大嫌いだ。例え誘拐された過去を持っているからといってルークを囲う事に対して嫌悪感を示すに決まってる。
 
 
「剣の練習に付き合えよ!」
 
 
嬉しそうに駆け寄ってきたルークの手には木刀が一つ握られていた。もう一つはルークが自分で所持しているのかと思って木刀を受け取った瞬間、ルークは自分の腰に挿している剣に手をかけ…た…?
 
 
「待て待て!お前のは本物だろうが!!何で俺が木刀でお前が剣なんだよ!」
 
 
「だってお前強いじゃん」
 
 
ブーッと頬を膨らますルーク。だがこれは譲れない。
 
 
「あのなぁ、お前に剣は早ェよ!木刀持って来い!」
 
 
実際ルークの剣の腕はまだまだ甘い。誰かに教えてもらっているらしいからちゃんとした型が存在しているが、それでも荒くて見ていられるものじゃない。防御だってしっかり出来ないし攻撃だって甘すぎる。
少しばかりきつく言い聞かせるようにそう言うと、文句を言いながらもルークは木刀を取りに行くために屋敷の中へと戻っていった。
 
 
「全く…」
 
 
「いつもご苦労さん」
 
 
溜息をついている俺の元にやってきたのはガイ・セシル。俺の第一発見者でありルークのお守りをしている苦労人一号である。しかしガイは時々苛々する事をしてくれる。それが無駄に気障で爽やかな時だ。星とか飛ばしているような雰囲気になると無性に殴りたくなる…。多分これはラスティの影響じゃないかと薄々思ってる。
 
 
「お前がやれよ…」
 
 
ルークの第一苦労人がこいつなら、俺は差し詰め第二苦労人ってとこだ。
 
 
「いやぁ、スパーダが来てくれて助かってるよ。俺がいない時にルークの相手してもらえて」
 
 
ガイはこう見えてもそれなりに忙しいらしい。使用人であることは知っているけどそこまで忙しいとは思っていなかった。それで、俺は仮にも居候であり客人でもあるらしいのでガイのような仕事は頼めない。だから俺はガイがいない時の代わりにルークの相手をしている。幸い剣の腕には自信があったからルークにもすぐに気に入られた。
ちなみにここで一つ言っておこう。ルークはあんなに我が儘だが、そのルークに知識などを教えたのは目の前にいるこの気障男らしい。育て方を間違ったんじゃないか?と問いかけると弱々しい声でそれは言わないでくれ、と頼まれた。ガイも自覚はあったらしい。
 
 
「ああ、そう言えばスパーダが探している人だけど、バチカルには来てないらしいぜ?」
 
 
ルークの相手をしていて外出出来ないプラス土地感のない俺の代わりにガイにはあいつらしい人がいないか探してもらっていたが、どうやらあいつはこのバチカルという街にはいなかったらしい。この公爵邸があるのはバチカルという街の中で、バチカルはこの世界の中で二大大国の一つらしい。しかもインゴベルト陛下という人が納めているらしい。俺たちが住んでいたあの世界には統治者という奴はいなかった気がする。というよりも表立っていないだけだったのかも知れないが、俺たちの世界では教会の方が凄い力を持っていたから、王とかよくわかんねー。こういうのはラスティの方が似合ってるぜ…。
 
 
「だったら別の場所か…」
 
 
バチカルともう一つの大国、グランコクマ。そして最後に国ではないが人の往来が激しい場所、ダアト。あいつの事だからこの二つのうちのどちらかにいるはずだ。だが、グランコクマとは今仲が悪く、行き来しづらいらしい。困ったもんだ。
 
 
「困ったな…。早く捕まえたいんだけど…」
 
 
「捕まえるって…おいおい、随分な言いようだな。どうするんだい?グランコクマにいるんだったら会いにくいよ?」
 
 
いや、あいつに不可能という言葉は存在しないような気がする…。いざとなれば疾風でも何でも出来そうだし…。あ、ちなみに疾風って言うのはあいつが使う技で移動や逃走に使われる技だ。応用すると空を飛べるらしい…。
 
 
「とりあえず大丈夫だろ。あいつだし」
 
 
いろんな意味で強いから問題ないだろうと思ってそう言うと、凄い信頼だね、なんてガイが茶化してきた。その茶化す言葉も気障っぽかったからついに耐え切れなくなって鳩尾に肘鉄をかましてしまった。腹を抱えて蹲っているガイを無視してルークの部屋へと足を運ぶ事にした。さっきからガイと長い間会話しているというのにルークは一向に戻ってこない。これは何かあったと考えるべきだろうな。
 
 
「ルーク?見つかんなかったかぁ?」
 
 
扉を開けながら中の様子を見ると一瞬誰もいないのかと首を傾げた。しかし部屋に足を踏み入れた瞬間、その存在に気づく事が出来た。ルークは確かに部屋の中にいた。部屋の中にいたが、頭を抱えて隅で蹲っていたのだ。
 
 
「ルーク!?」
 
 
状況が分からなかったがルークに何かがあったのは間違いない。急いでルークの元に駆け寄ってその肩に手を置いた。しゃがみ込んで顔を覗き込むとルークの顔は真っ青で、頭が余程痛いのか歯軋りしている。
 
 
「大丈夫か!?」
 
 
「痛っ…」
 
 
強く頭を押さえて顔を苦痛に歪めるルーク。今まで見たことのない状態にパニックになりそうだが、ここは冷静に対処しなくては!とりあえず俺がしなければならない事はガイを呼ぶ事だ。まだガイは近くにいたはずだ!
急いで部屋を飛び出し、庭にいたガイの所に行ってその腕を引っ張った。
 
 
「ガイ!!ルークが大変だ!!」
 
 
ガイは俺が慌てていることに目を丸くしたが、ルークという言葉にすぐに真剣な表情になり、ルークの部屋へと駆け出した。俺が一歩遅れて部屋に飛び込むとガイはルークの傍で膝を突き、その肩に手を置いていた。
 
 
「ルーク、いつものか?」
 
 
ガイが冷静に問いかけると、ルークは出来るだけ痛まないようにゆっくりと頷いた。おそらく痛みのせいで喋れないんだろう。
 
 
「とりあえずルークの部屋に連れて行こう」
 
 
ガイがルークの肩を抱くようにして体を支えながら部屋から出て行った。言い忘れていたがこの部屋はルークの部屋ではなく武器などがしまっている部屋だ。
ここから先は俺の仕事ではなくガイの仕事だ。俺はまだまだルークの事を知らない。だからルークのあの症状がどのようなものかも分からない。
 
 
「…!?」
 
 
俺も自室に戻ろうと一歩踏み出した瞬間、頭の中に響く酷い金属音。この音は…、久しぶりにあいつに会った時に感じたあの音と同じ…!
 
 
――……ぃ…る…を……す…くれ…――
 
 
リリーのように直接頭の中に響く謎の声。この声は聞き覚えのない声だったし、聞こえた内容もまるで理解出来ないものだった。
 
 
「どういう意味だ…?」
 
 
聖なる焔の光を助けてくれ…って……。
 
 
 
 
 

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