物語の始まり


 
 
 
 
 
意識を取り戻して辺りを見回したらまぁビックリ!見事なほどに鬱蒼とした森の中に一人きりで立たされていましたって、ふざけんなよ!!何で俺はこんな所で一人でいるわけ!?え?てかスパーダはどこに行ったよ!?俺はしっかりと手を繋いでいたはずなのに、気付いたらいなくなってるって有り得ないし!!
しかもさ、それだけならまだマシかも知れんが、何故か俺の目の前には森と同じくらい鬱陶しそうなおっさんが一人立っていたんだよ。しかも剣を俺に向けて、めちゃくちゃ睨みつけてくるし。本当に、最悪だよ!!俺が何をしたって言うんだ?俺様はめちゃくちゃ良い子なのにさ!……すまん、嘘をついたかも…。
 
 
「…とりあえずおっさんさぁ、それしまってくれねぇ?」
 
 
突きつけられている剣はある程度距離が離れているから、本気で避けようと思ったら簡単に避けられる。けれどあえてそれをしないのは相手の出方を窺っているのと、こちらに不審な要素がない事を示すため…、何だけど、上手くいくかは自信ないわけ。
案の定おっさんは剣を避けるどころかさらに突きつけてくる始末。俺、リリーを抜いていいよな…?俺はこう見えても気が短いんだよ…?
 
 
――落ち着いてラスティ。こちらがいきなり現れたのだから、警戒されても仕方がないわ――
 
 
それくらい言われなくても知ってるよ…。たださ、何となく目の前にいる髭だらけのおっさんがムカつくだけなんだよなぁ?ちゃんと整えてるんだろうけど、髭とかムカつくし、それにあの微妙な長さの髪とか、何か全体的に嫌悪感しかない顔っつうか…。
 
 
――髪の長さならあなたも中途半端じゃない…――
 
 
おっとリリー、それは言っちゃいけない約束なんだぜ?
とにかくな、俺は何とかこの状況を打破したいわけ。こんな鬱蒼とした森にいつまでもいるのはやだし、それに俺のマイスイートハニーであるスパーダ君を見つけに行かなければならないわけだよ。分かってくれるかい?
 
 
――……マイスイートハニーは死語だと思う…――
 
 
煩いっ!!
 
 
「お前は何者だ?」
 
 
ナニモノ?え?何それ?目の前のおっさんは俺が何に見えているんだろうか?
 
 
「生き物?」
 
 
「真面目に答える気がないのか?」
 
 
剣が俺の顔に近づいてきて、遊びすぎたと思わず笑ってしまった。しかし、このまま剣が近づいてきたら俺の美しい顔に傷がついてしまうから、突きつけられた剣の腹を両手で挟んで切っ先を逸らした。
 
 
「よしわかった。ナマモノだな」
 
 
――真面目に答える気皆無ね…――
 
 
うーん…。リリーのツッコミは確かに的確ではあるが、威力が弱いなぁ。ツッコミ不足だ。せめてスパーダほどの実力を持っていないと、俺のギャグに乗り切れないぜ。
 
 
「答えないと言うことは覚悟があると言うことか?」
 
 
両手で挟んでいた剣が一瞬にして抜かれ、俺へ目掛けてその切っ先を突き出してきた。瞬間的に目を見開き、背負っていたリリーでその剣を受け止めた後、バックステップで距離を取った。
危なぁ…!今のは俺ぐらいの力を持っていないと避けれない攻撃だったな…。
 
 
「んだよ、短気だなおっさん!カルシウム不足だぜぇ?」
 
 
右手に刀身を露わにしたリリーを構えてまま、警戒しながらもにやりと不敵な笑みを浮かべる。この目の前にいる男は本当に隙がない。かなりの腕と見える。先程の剣の腕から見て、俺と同じか、それより上ってところか?まあ、俺が負けることなんてないだろうがな!
 
 
「なかなかやるようだな…」
 
 
相手も俺の動きを見てかなり強いと判断したのか、剣を構えて隙を作らないようにしている。あーあ、本当にこのおっさん隙がないぞ。めんどくさい事になってきたなぁ…。俺は力比べをしたいわけじゃないんだよぉ。…しょうーがない。隙がないなら無理矢理作るまでってか?行くぜ、リリー。
俺の心に合わせてリリーが紫電を纏い、唸りを上げる。その瞬間、足に力を入れて一気に前へと飛び出し、リリーを振るう。
 
 
「第五神、紫神!」
 
 
普通の人から見れば単に剣を振り下ろしたように見えるだろう。けど、紫神は特殊な攻撃だ。振り下ろすだけの攻撃でも十分効果がある。
 
 
「あま、い…!?」
 
 
おっさんは自分の中に駆け巡る電流にすぐに気付いたのか、俺が振り下ろしたリリーをすぐに弾き、後ろへと下がった。その行動に驚いておっさんと同じように後ろに下がって様子を窺うと、おっさんは自分の手を確かめてから、こちらの事を見てきた。どうやら、紫神の電流が完全に回り切らなかったようだな…。
 
 
――ええ、そうみたいね…。あんなに普通の動きが出来るのなら、ほとんど効いていないと考えて良いかも知れない――
 
 
…紫神に気付くたぁ良い勘してるぜ、あのおっさん。電流を喰らって瞬時にリリーを弾いたんだ、あの動きはかなり強いな…。油断できないな。紫神が効かないなら、どうやって隙を作ろうかね…。
ああもうめんどくさいな!こんな鬱蒼としたところに飛ばされるは目の前のおっさんと戦わせられるわ、本当に災難ばかりだ!早くスパーダを見つけたいのに!!
 
 
――マイスイートハニー?――
 
 
…泣いていいか…?
 
 
「お前は何者だ?その奇怪な技、私にも劣らない強さ…。そしてその刀…」
 
 
その刀、と言うのはリリーの事…だよな?確かにリリーは珍しいが、おっさんがリリーに向ける視線はそういうのじゃなくて、俺が刀を所持している事に驚いているようだ。刀が珍しい、と言うのはどういう事だ?刀は一般的なものだと思っていたが…。
 
 
「どこから来た?ホドの人間には見えないな。名を名乗れ」
 
 
警戒するように構えられていた剣がまたしても突きつけるように俺へと向けられる。俺はその行動よりも、言葉に訝った。この目の前のおっさんは一体何を言っているんだ…?ホド?それは、地名なのか…?
 
 
――ラスティ、あの時の事覚えている?あの声が言っていた事を――
 
 
…なるほど、ここがあのローレライとやらが言っていた異世界、オールドランドという事か…。だったらこのおっさんが口走っている言葉が多少は理解出来るかも知れないな…。この世界では刀というものは珍しいものなんだ。そしてその刀というのはホドという場所に存在する珍しいものだった。こう解釈すれば、リリーへの視線の意味を理解する事が出来るな。
それにしても、ここがオールドランド…。あの声が言っていた救って欲しいもの…。
 
 
――考え事をしている場合?どうするつもり?――
 
 
素直に名乗ってやろうじゃねーか!どうせ俺たちには帰る場所がないんだ、ここで好き勝手やらせてもらおうじゃないか!
 
 
「俺の名はラスティ。ラスティ・クルーラーだ。さあ、おっさん!あんたも名乗りな」
 
 
突きつけられた剣に対抗するようにリリーを突き返すと、おっさんは目を見開いた後にゆっくりと剣をしまってしまった。その顔は何かを企んでいるような、そんな嫌な顔だった気がする。
少しばかり気が抜けて俺も同じようにリリーをしまう。
 
 
「ラスティ…。古代イスパニア語で神の讃美歌、か。間違いないな」
 
 
何かぶつぶつと呟くおっさん。その光景は俺から見たらとんでもなく気持ち悪いものだった。大体いい歳したおっさんが独り言とか痛すぎるだろ!つーか色々気持ち悪いし!髭ウゼェ!髪もウザい!全てにおいてむさ苦しい。略してKUM(キモいウザいむさ苦しい)だな!
……あれ?てゆーか、何かを聞き逃したような…?
 
 
――神の讃美歌――
 
 
「神の讃美歌?」
 
 
神って言うのは俺のことか?確かに俺の前世であるリリーは神であったけれど…?いや、それよりもなんでこのおっさんは俺が神だったって事を知っているんだ…?おかしいぞ?俺はこの世界に来たばかりで、大した情報もないはずなのに…。
 
 
「お前は別の世界…異世界から来た者だな」
 
 
「…!?」
 
 
おっさんの口から出た言葉に、俺は思わずリリーを力強く握り締め、いつでも技を発動できるように構える。本当に、このおっさんは何者なんだ?俺が元神である事を知っているだけではなく、俺が異世界の人間である事も知っている。侮れないな…。
 
 
「そう構えなくて良い。私は君の味方だ。ようこそ、オールドランドへ!!」
 
 
両手を広げ、楽しそうにそう言ったおっさんの顔は、他の者から見たら好感の持てそうな柔らかなものだったが、俺たちから見たらとてもじゃないが信頼できるようなものではなかった。俺たちは人の本質を見抜くことが出来る。それこそ、人の感情が蠢く場所で生きてきた俺たちだから知ることの出来る能力みたいなものだ。
こいつは、危険だ。
 
 
――気をつけてね――
 
 
ああ、分かっている。しかし、このおっさんが俺たちの事を異世界の人間と知っているのなら、話は早いのかもしれない。俺たちはこの世界では知識が足り無すぎる。このおっさんと共に行動すれば、俺たちに必要な情報が手に入るかも知れない。スパーダの事を探しにいけるかも知れないし。
 
 
――私はあなたについていくだけよ――
 
 
ありがとうリリー。
さあ、これからローレライの言っていた頼みを果たしてやろうじゃないか!!
 
 
 
 
 

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