死神


 
 
 
 
 
お前は一体誰だ?何で俺しか声か聞こえていないんだ…?


――…私は…私の名はリリー。あなたの刀に宿る意志…――


刀に宿る意志?しかも名前はリリーって…。この刀の名前がお前の名前なのか…?お前は何者だ?何故俺の刀に宿っている?ラティオって何だ?何を知っている…?


――…私はあなたの知らない事を知っている。あなたはアレスの転生者。その昔天上があった頃に勝利の女神と謳われていた一人の少女の生まれ変わり…――


アレス?それが俺の前世の名?なあ、転生者って何だよ…。生まれ変わりって…。俺にはまだ良く理解出来ない。教えてくれ、リリー。


――…転生者とは、天上と呼ばれる世界があった頃に、神だった者の魂が転生した人の事を呼ぶ。そして転生者には天術と呼ばれる特殊な術を使える力を持っていた。これが人間の間で異能の力として捕らえようと法律を可決した。あなたも知っているでしょう…?あなたが持っているその力は転生者の力…――


…転生者の力…?そんな力があったせいで、俺がどれだけ…。


――…あなた一人では無い。沢山の人々がその力に苦悩し、多くの人々が捕らえられ、あなたのように兵器として使われようとした。恐ろしい事…。人は人として扱ってもらえない…――


…俺は…果たして人なのか…?


――…その答えが知りたいならば、自らで見出すしかない。私はその答えを知らないから…――

























「ラスティ!!」


「!!」


スパーダの声が聞こえて意識が急に引き戻されたような感覚がした。今までのは一体なんだったのか思わず悩んでしまうような…。
いつの間にか顔は俯いてしまっていた。どうやらあのリリーと言った声と話しているうちはこちらに意識が行ってなかったみたいだ。


「大丈夫?」


少し俯いていた顔を上げると、目の前には青い髪をした女性…先程助け出した人が俺の顔を覗き込んでいた。その事に少しばかり驚いて目を見開いて顔を上げると、女性は目をパチパチさせた後に納得したような顔をした。


「何も知らない方でしたね。いきなりすみません」
 
 
「いや、俺も悪かったよ…」


「そうですか。あ、私の名前はアンジュ・セレーナ。ナーオスの教会で尼僧をしてました」


「俺はラスティ・クルーラー。よろしく」


握手するために差し出した手を優しく握ったアンジュはふわりとした笑みを浮かべていた。先程座り込んで顔色を悪くしていた人物とはとても思えなかった。


「んと、これからどうする?」


「一度ナーオスに戻ろう。そこからまたどこに行けばいいか考えればいいし」


ルカがそう言って踏み出そうとした瞬間に、劈くような警報音。それを聞いた俺たちは微かに冷や汗を流した。確かにどんぱちとガラクタと遣り合ってたんだ、鳴ってもおかしくない…。


「早く逃げましょ!」


イリアの焦ったような声を筆頭にそれぞれが出口に向けて走り出す。俺はとりあえず安定した位置を確保するために後ろの方からルカたちを見た。後ろだったら何かあった時に素早く指示を出せるし、全体を見回せるし…。


「ラスティ君…でいいかな?あなたって戦闘慣れしてる?」


「どうしてそう思う?」


「うーん、この行動からかな?前も大変だけど、後ろってもっと大変だと思うの。現にあなたは後ろの方について全体を見回してる。ね?合ってるでしょ?」


こくんと小首を傾げる様に傾けるアンジュに、少しばかり笑みが零れた。この聖女殿は全く油断できない観察力を持っていらっしゃる。冷静な判断。そして俺の行動からすぐさま戦闘に慣れている事を導き出す頭脳。うーん、俺の優秀な頭脳に引けをとらないなぁ…。何か負けた気がするからやだなぁ。


「凄い観察力だな。吃驚だ。聖女様は凄いな」


「もう、茶化さないで。いざという時はラスティ君の力が必要になるかも知れないのに…」


「ああ、悪かったよ」


少し機嫌を損ねたアンジュの表情を見ながら苦笑いをすると、彼女は何かの違和感を感じたのか首を傾げていた。けれどその違和感が何なのか分からなかったのか、特に何も言い出す事無く黙って俺を見ていた。俺はその視線に耐えかねて少しばかりスピードを出してルカたちのすぐ後ろへとついた。


「出口はまだか?」


「もう少しのはず!」


スパーダがそう言って一層力強く地面を蹴って前に進むと、目の前が一気に開けた。どうやらある程度の広さを持った場所へと出たらしい。しかし、その部屋の奥の方…つまり出口方面には一人の男が立っていた。
ん?あいつは…。


「またガキか…」


呆れたような声が聞こえた。もちろん男からだ。その声にはどうしようもない疲れが感じられた。もう歳を取り過ぎたおっさんのような声だった。


「お、お前はっ!…なんだっけ名前」


「確かリカルドって呼ばれてた…」


「いつから戦場はガキの遊園地になったのやら」


その男…リカルドは肩にライフルをかけており、俺たち一人ひとりの顔を見ていた。そしてリカルドは俺の顔を見ると、その顔を微かに動かした。本当に微かだったから俺以外には気づかれなかったはずだ。


「まぁいい。アンジュという女とラスティという男を探している。知らんか?」


ちょ、何であえて俺の事を無視したし、あのおっさん!良い子のみんなには教えよう。俺はあのリカルドと多少ならざる関係にある。その関係が何かはきっとすぐに分かるだろうさ…。
 
 
「私がアンジュです」
  
 
アンジュはするりとイリアとルカの間をすり抜けると、リカルドの前に立った。するとリカルドはその潔い行動に感心したのか、感嘆とした息を吐いた。


「俺はリカルドと言う。君ともう一人の身柄を確保するように依頼を受けているんだが」


ちっ、こっちに気づいていながらもいけしゃあしゃあと…っ!なんてムカつく髭と髪なんだ!いつかあの髪をいじり倒してやる!


「あいにく連れがおります。ご一緒してもよろしいかしら?」


「悪いがエスコート出来るのは君ともう一人だけだ。他のガキの面倒までは見られない」


リカルドが冷たく言い捨てるとアンジュはあら、と困った風に言うが、顔はめっちゃ微笑んでる。黒い。さすが聖女様だ。時には神さえ脅せる強さが無ければいけないんだな!


「あら、残念ですね。でしたらお断りします」


「だとよっ!消えな、おっさん」


基本、お前たち俺のこと放置プレイだよな…。そんなに影薄かったっけ…?


「教えてやる、ガキ。いい大人は出来ない仕事は引き受けたりしないもんだ。そして子供の我がままを厳しくしつけるのも大人の役割さ」


はっきり言おう。気持ち悪いぜ、おっさん。何、そんな役割ないし。つーか俺たち子供って呼ばれるほど若くないし。
そうして色々と考えに耽っているとなにやらぴりぴりとした空気になっている。何?戦闘しちゃう系?ええ?俺的には戦いたくないんだけど…。まあ、やらなきゃいけねーならやるがな。


「ではこうしましょう」


ぴりぴりとした雰囲気の中アンジュは落ち着いた様子でリカルドのすぐ近くに近づく。その様子を見たリカルドは構えようとしていたライフルを再び肩にかけてアンジュを見下ろした。


「いい覚悟だ。手荒には扱わない」


「違います。こちらを…」


アンジュが懐から首飾りを取り出すと、リカルドの目が見開かれる。ここから見ても随分と高価な物を差し出しているように見える。


「こちらを差し上げます。いかがでしょう?」


「ははは!!これは素晴らしいものだな。違約金を払っても十分釣りが出る」


とりあえずリカルドは気持ち悪い高笑いを上げると、ライフルをしまってその首飾りを受け取る。そしてそれを懐にしまい込むと、またしてもアンジュを見下ろした。


「では、その釣りで契約を。私とラスティ君の護衛をお願いいたします。足りなければ手付け金とさせてください」


「いいだろう。…しかし何故雇う気になった?」


「さらわれては困ります。それだけです」


アンジュはさらっとそう言っているが、本当はこの不安定すぎる戦力を安定させたかったんじゃないかと思う。やっぱり腹黒聖女だ…。


「みんな構わないよね?」


みんなは主にアンジュの圧力に負けているんだと思う。あの笑顔で後ろに何か降臨していたら、誰もが平伏したくなるだろうよ。悪魔も裸足で逃げ出すってか?あ、閻魔か。
んで、そんなコントを続けているルカたちを差し置いて、俺はリカルドの前へと足を運ぶ。そしてそのムカつくぐらい高い身長を眺める。


「ムカつく…。久しぶりだな…」


少しばかりぼそりと呟くと、リカルドは微かに顔を歪めた。もちろん知らない俺が話しかけたから、とかではない。さっきも話した通り俺たちには多少ならざる関係がある。それは…。


「久しぶりだな…お義父さん…?」

 
俺がそう言った瞬間のみんなの顔を、きっと一生忘れられないと思う。
あー、この反応面白すぎる!!





 


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