出逢い


 
 
 
 
 
いつだって見る夢は大抵良いものじゃない。悪夢だ。俺はそんな悪夢が大嫌いだ。見る夢は大体が同じ。真っ赤な夢だ。それは背景や周りが赤いんじゃない。自分自身が真っ赤なんだ。そう、それは血だ。忌々しい真っ赤な血。俺を染め上げる恐ろしい色だ。
そしてそれはその紅から逃げたくていつだって夢の中で逃げ回っている。それでも追いかけてくるその色に、恐怖すればするほど、それは近づいて来るんだ。
来るな!と何度も叫ぶ。俺は、俺はもう、そんな事をしたくない。俺は……!


























不意に、引っ張られるような感覚がして、意識が覚醒する。目をゆっくりと開くと、そこには天井と言うには有り得ない色があって、俺は何回も瞬きを繰り返してからぼうっと周りを見回す。
 
 
「これは天井と言うには派手な色だな…建設した奴はセンスに欠ける…」
 
 
起きたばかりで相変わらず状況を飲み込めないでいると、いきなり頭に衝撃が来た。その痛みが意外と強かったのでばっちりと目が覚めた。目の前にあったのは天井じゃなくて、どうやら一人の少年だった。見るからに目つきが悪く、不良な少年だった。わー不良だー。
 
 
「聞こえてるっつうの!てめぇ、絶対わざとだろ!」
 
 
「あ、バレた?俺的にはさ、もう少しツッコミのセンスがある奴にツッコミを入れて欲しかったんだけどなぁ…」
 
 
ぼそっと聞こえるように呟くと、その不良にもう一発頭を叩かれてしまった。くそ、俺の優秀な頭脳を滅ぼすつもりか!この悪の手下め!雑魚め!
 
 
「誰が雑魚だ!」
 
 
「お前だ!」
 
 
もう一回頭を叩こうとした不良少年の攻撃をかわして起き上がると、周りは薄暗い。壁の素材や周りにある機器を見ると、どうやらここはどこかの研究所に見える。あれ?何で俺こんな所にいるんだっけ?うーん、長い間寝ていたせいか思い出せないかも…。
 
 
「あんた大丈夫?」
 
 
周りを見回していたら、どうやら不良少年の他に人がいたらしい。赤い髪の女の子がこちらを見下ろしていた。目も綺麗な赤い色をしていた。その少女は腰に付けているホルダーに二丁の銃を入れている。
 
 
「とりあえず大丈夫だ。ついでにここがどこで俺が誰だか教えてくれ」
 
 
とりあえず再びふざけ半分でそう言うと、真っ先に反応を示したのは先程の見るからに不良少年だった。とりあえずツッコミが未熟だったのでセリフは聞かないでおこう。
 
 
「ふざけんな!」
 
 
なんて言っていたらもう一回叩かれてしまった。だから俺の優秀なる頭脳をダメにするつもりか!?この頭の中には戦闘のいろはが詰まっているんだぞ!貴重品だ!売っちゃいけないぜ!


「とりあえず、ここは転生者研究所って言って、転生者を集めて兵器とかに使おうとする施設なんだ」


俺と不良少年の会話を見事にスルーして入ってきたのは銀髪に翡翠の目を持ついかにも苛められっ子と言う言葉が似合う少年。もう、目とかその口調からして苛められてそう。てかいじるのに丁度良さそう…。


「えっと、それで君はそこにあるギガンテスって機械のエネルギーにされてたの…って聞いてる…?」


「んお!?すまんすまん、聞いてたよ。つまりお前たちが助けてくれたんだろ?サンキュー」


「何とも軽い礼だな…」


「気にしたら終わりだぞ、不良少年♪」


口笛を吹きそうな勢いでそう言うとまたしても頭を狙われそうになったので、立ち上がってバックステップをして避けた。そして逆に不良少年の頭をポンポンと軽く叩いてやった。


「ん?って事は俺はその転生者とやらなのか?」


「なによ、自分の事を知らないわけ?」


「自分の事は良く熟知しているつもりだが…。その転生者なんたらがどういう意味でどういう人物を指すかはちんぷんかんぷんだ…。全く俺は善人の様な行動を取っていたというのに遺憾の意だ」


腕を組んで胸を張ると、不良少年と赤髪の少女に思いっ切り溜息をつかれた。その隣に立っている銀髪の少年は困ったように双方を見合っているだけだった。


「それで?お前たちは一体何をしているわけ?わざわざこんな所まで来るって事はめぼしいもんでもあんのか?」


「さっきも言ったと思うけど、ここは転生者が沢山居る場所なんだ。僕たちは君と同じ転生者で、仲間を探していたんだ」


「それで、ナーオスの町で聖女って呼ばれてた人がここに居るって聞いて来たわけ。あんたなんか知ってる?」


聖女…。噂は聞いた事はある。人々を癒す術を持ち、その聖女に会うために遠くからはるばる来る人は少なくないって。しかしその人がここに居るかは知らない俺はただ首を横に振った。それを見ると三人は一斉に肩を落とし、重たい溜息をついた。どうやら俺が知っていると思っていたらしい。残念だが、俺がここに来る前には聖女は捕まってなかったぜ…。


「ふぅん…。まあ俺が転生者でここに居るって事は、あんまり良い状況じゃねーんだよな?」


「まあ、そりゃあそうだがよ…。一緒に来るか?危険な旅だけどよ」


「問題無い。危険な旅は慣れている。まあよろしく頼むよ。俺はラスティ・クルーラー。ファーストネームで呼べ」


握手として手を差し出すと、それを真っ先に握ったのは意外な事に不良少年だった。まさか一番こういう事が嫌いそうな人物がしてきたので多少ばかり驚いているとめちゃくちゃ握力かけられたので涙が軽く滲んだ。


「痛いんだけど…」


「ああ、わざとだ」


どうやら機嫌を損ねてしまったみたいで…。めっちゃ痛いわー…。


「スパーダ・ベルフォルマ」


手を離した後にそう言った不良少年改めスパーダは灰色の目でこちらを睨んできた。おお、こわー。
そんなスパーダを横目に、次は赤い髪の少女が握手してきた。


「あたしはイリア・アニーミよ。それでこっちにいるいかにも弱そうなのがルカね」


「ちょっとイリア…挨拶ぐらい僕にさせてよ…。イリアが言っちゃったけど、ルカ・ミルダです」


自分が名乗る前に名前を言われてしまってしょぼんとしている。そんな二人を見て、見事に合わなそうな奴らだ、と思ったのはここだけの秘密だ。


「んで?その聖女をどうやって探すつもりだ?」


「それは…」


何やらイリアが言いかけた時に、重たい機械音が辺りに響き、三人の動きが固まる。そして奥の方に視線を向けると、何やら機械がこちらに向かって歩いてきていた。真ん丸いボディ。俺が起きた時に近くに転がっていたガラクタに良く似ている…。


「似ているんじゃなくてその物だよ!」


ルカはそう叫ぶと背中に背負っていた大剣に手を伸ばし、それを抜こうとしていた。それはその手の上に手を乗せてそれを牽制すると、三人の前に一歩踏み出した。三人は俺の背後に居る格好になる。


「あんた何するつもり!?」


イリアが二丁銃を取り出して構えようとしている。俺はそんなイリアににやりと笑いかけると、背負っている俺の武器に手を伸ばす。


「俺が片付けてやるよ。そこで見学でもしてろ」


するりと武器を右手に収め、その感触を確かめる。この手にあるのは一見普通の杖。後ろに居る三人も狼狽えたような気配を見せるが、俺は構わず武器を構えた。ガラクタはすぐ近く。けれど俺には負ける気なんてさらさらない。


「行くぜ?リリー」


リリーの両端を持って左右に引くと、そこからは研ぎ澄まされた一振りの刀が現れた。


「!?」


三人はリリーを見て驚いているようだ。大体最初にリリーを見た奴が見せる反応だ。俺が杖を持って旅していると追い剥ぎやら盗賊やらが良く俺から金目の物を奪おうとする。その度にリリーを引き抜くと、大体の奴は腰を抜かしてそのまま去っちまうんだがな…。
とにかく、目の前のガラクタには勿体無いくらい良い武器だ。


「さあて、何枚に切り裂いて貰いたい?」


挑発するように笑みを浮かべると、ガラクタは派手な機械音を響かせながらこちらへと突っ込んで来た。俺はそれを飛んでかわし、そのボディにリリーを振り下ろした。硬い音が響いて、リリーが弾かれる。予想よりも硬いボディらしい。


「よろしい、ならば受けてみよ」


リリーを力強く握り、ゆっくりと口を開く。


「第一神、翠神」


淡い緑の光と、薄い風の膜がリリーを優しく包み込む。この風は全てを切り裂き、この刀の前に物が存在している事など出来ないだろう。
リリーを振りかぶってガラクタを真っ二つにしようとした時に、イリアの鋭い声が聞こえた。


「後ろのシリンダーには人が入っているわよ!」


「それは早く言え!?」


振り下ろそうとした軌道を無理矢理逸らして、何とか真っ二つは避けることが出来た。地上に着地すると、若干冷や汗が流れていた。
とりあえずガラクタは崩れるように倒れ、パチパチをショートしたような音を鳴らしていた。すぐにスパーダと一緒にシリンダーに駆け寄り、それをガラクタから外して遠くへと避難した。そして爆発をさせたくは無かったので水系の術をぶっ掛けといた。
シリンダーを開けて現れたのは青い髪の女性。その顔色は若干青く、体調はあんまり優れないように思える。座り込んで俯いたままの女性の顔ははっきりとは見えなかった。


――…彼女は…もしや…――


不意に、頭の中に響くような声が聞こえてきて、辺りを見回す。しかしそこには俺たち以外の人物はいない。それにここで俯いている女性が喋ったわけでもない…。


――…ラティオ……この感じ…――


俺を無視して勝手に何やら考えに耽っている謎の声。
一体お前は誰だ…?





 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -