過去から未来へ


 
 
 
 
 
ハスタを倒し終わった後、先に進むために階段に足をかけた瞬間、塔の下から沢山の怒号が響いてきた。おそらくこの黎明の塔の下の方にいた兵士たちのものだろう。どうやら中に入ってきてしまったみたいだ…。だが、この塔には恐ろしいほど強い魔物がうじゃうじゃ存在している。そう簡単に上がってこれるとは思わないが…。
 
 
「あー…、ついに入っちまったか…。魔物にやられてなけりゃいいけど…」
 
 
階段を上りながらリリーを振るい、階段のあちこちに存在する魔物を切り捨てる。翠神を纏ったままのリリーだから、大体の魔物は一発で倒す事が出来る。何せ、翠神に斬れないものはないからな。
 
 
「不吉な事を言わないでよっ!剛・魔神剣!」
 
 
「だなっ!空破絶風撃!」
 
 
「非常に笑えないわね、斬刃連牙突!」
 
 
ルカたちもそれぞれの武器を振るいながら次々と魔物を倒していく。俺たちが通った後には魔物の死体が生まれたが、残念な事に今は構っている暇はなかった。魔物を倒しながら進んでいると、またしてもさっきと同じような広い場所へと出る事になった。
 
 
「また外か!」
 
 
塔の外階段を上ろうと左側へと駆け出した瞬間、俺の耳に嫌な音が届いた。プロペラが回る、嫌な音。これでも俺は勘が鋭い方だ。あまり外した事はない。嫌な予感しかしない…。
そう思った瞬間、俺たちの目の前を大きな物体が通り過ぎていった。オレンジ色の巨大な物体。それは確か、俺が最初にルカたちと会った時に見た機械だ。俺が入れられてたと言っていた。名前は確か…ギガンテスだったはず…。そのギガンテスが俺たちの進行を邪魔するように階段の前に着陸した。
 
 
「ほお!お前らまだ生きていたか」
 
 
ハスタとはまた別な嫌な声。大嫌いなあいつの声だ。
 
 
「「ブタバルド!」」
 
 
イリアと同時に叫ぶと、ブタバルドは気持ち悪い声でなにやら叫んでくる。あいつの言葉を聞きたくなくて耳を塞いでいる事にする。すると、俺の隣に立っていたスパーダが非常に良い事を言ってくれた。
 
 
「権力にまみれて肥え膨れた野郎が何言ってんだよ!悔しかったらダイエットを成功させてみな」


「ナイスだ、スパーダ!んなに腹が出てるからブタって言われんだよ!その腹の脂肪減らして出直して来な!気持ち悪いんだよ!!」
 
 
スパーダの言葉に便乗するようにそう叫ぶ。今までの鬱憤と恨みがこいつには沢山あるから、これくらいの事は許されるはずさ。ハハッ!
 
 
「…貴様ら!いいだろう、この新型の性能を試してくれる。マティウスまでのウォームアップだ」
 
 
ギガンテスの両腕が上下に動き、怒りを表そうとしているみたいだけど、こちらから見たらそんなに怖くない。むしろちょっと可愛く思えるくらいだ。まあ、怒ったとしても正論だから反論できないだろうがな。てか、こいつそんなに強くなかったはずだぞ?いくらギガンテスに乗ってるからって調子乗ってんじゃないか?戦いをその身で経験した事ない奴が戦いにいるのは、不快だ。
 
 
「マティウスを倒してどうするつもりなんだ!」
 
 
「知れた事!創世力で私は神になる。この世の全てを支配するのだ!マティウスは邪魔者に過ぎん。…もちろんお前らもだ」
 
 
…醜い。こいつは本当に昔から何も変わっちゃいない。自分の事だけ考えている、卑怯な奴さ。自分がよければ他人なんてどうでもいい。創世力はそんな事をするために存在しているものではない。神々が世界を良くするために存在するものだ。それをこいつは…。
 
 
「創世力の真の意味を知らない奴に何が出来る!創世力は神々の意志が篭っている大切なものだ!それをお前なんかに渡すかっ!ブタバルド!!」
 
 
犬歯を剥き出しにして思いっきりそう叫ぶ。こいつに創世力は渡さない。俺たちは誰もが皆平和に生きれる世界を作るために創世力を求めているんだ。
手に握ったままのリリーを強く握り締め、構える。
 
 
「ふふ、この新型相手に何秒持つかな?なにせ以前とは出力が違うからな。さすがは、神の肉体だ!」
 
 
ブタバルドがどこか自慢げな声を出しながらギガンテスをくるくると回転させる。その瞬間、後ろに積まれていたポットに見覚えのある姿が飛び込んできた。
あれ、は…!!
 
 
「貴様…、そこに見えるは…」
 
 
誰よりも地上を愛し、地上のために行き過ぎた愛を見せながらも、最後は俺たちと共に生きることを選択したガードル。しかしそれは愚かにもブタバルドに協力した者たちの手によって消されてしまった。海へと落ちた後の行方を知らなかったけれど…、まさかこの男、ガードルの遺体を燃料に使ったというのか…!至高の望みと地上の平和を願った神を、汚れた人間ごときが…!!
 
 
「おやおや、見えたか?そう、確かガードルとかいう名の燃料だったかな。素晴らしいエネルギーだ。このパワー、身をもって味わうがいい」
 
 
赦せない…!神を、一人の人を燃料と呼び、死体すら安らかに眠らせないこの男…!絶対に赦せない、赦してはならない!人を道具のように使うこいつに、俺たちが裁きを!!
 
 
「彼の死を冒涜する気かっ!貴様!生きて帰れると思うなよ…」
 
 
「生きて帰れる…?こいつは生きている価値なんて最初から無い!人を冒涜し、死体を蹂躙した罪、万死に値する…!!」
 
 
右手に握るリリーを力強く握り締める。リリーも同じように考えているのか、無性に眼が熱い。リリーも俺の感情が高ぶっている証拠だ。だが、何が悪い?感情が高ぶらずにはいられないだろう。こんな、腐れ外道の前に立っているんだからな!
 
 
「素敵な死地へご招待だ腐れ野郎!!」
 
 
足を力強く踏み締め、一気に前へと駆け出す。リリーを構えてギガンテスへと斬りかかる。しかしギガンテスはそれを嘲笑うように空中へと飛び上がり、その右腕についている巨大な銃の照準を俺へと向ける。
 
 
「お前らも燃料にしてくれる!」
 
 
右腕の銃から無数の銃弾が撃ち込まれるが、俺は冷静にリリーを構え、ゆっくりと目を閉じる。これを避ける必要はない。全て燃え尽してやる!
 
 
「全てを灰に帰せ!第四神、灰神!」
 
 
全てを燃やし尽くす炎を纏ったリリー。それをギガンテスに向けて勢い良く振り下ろす。炎はリリーの元を離れ、ギガンテスの方へと飛んでいく。ギガンテスが撃った銃弾は灰神によって全て溶けたが、ギガンテス本体は灰神を避けてしまったようだ。しかし、避けられる事は百も承知!
 
 
「レイ!」
 
 
「アイストーネード!」
 
 
「サイクロン!」
 
 
イリア、アンジュ、エルが一斉に天術を発動し、ギガンテスに放つ。俺が望んでいたのは後ろで控えているこの三人の天術だ。この天術を完璧に避ける事は出来ない。どれか一つには必ず当たり、ギガンテスの高度は下がる。そしてそこへルカとスパーダが一気に前へと踏み出す。
 
 
「「裂空斬!」」
 
 
一気に回転をかけ、体を回してギガンテスに攻撃する。そんな二人を見ながら、俺も一気に距離を詰めるために走り出す。力強く地面を蹴り、空中で回転をかけてから操縦席のガラスにリリーを勢い良く叩きつける。
 
 
「お、お前のその目!その髪!思い出したぞ!」
 
 
俺がリリーを操縦席のガラスに叩きつけた瞬間、ブタバルドは顔を蒼白にして震えながらガラスの向こうで俺の事を指差した。醜い表情には恐怖が浮かんでいた。
 
 
「お前は八年前、王都軍にいた殺戮人形だな!恐ろしい感情の無い悪魔だ!」
 
 
八年前…。俺が九歳の時…。リカルドが俺を戦場という悪夢から救い出してくれた年…。殺戮人形…。こいつが俺につけた憎々しい名…。
 
 
――ラスティ!あなたはもう殺戮人形ではない!今のあなたは血の通った人間よ!過去を引き摺るのは止めたんでしょう!――
 
 
ああそうさ、リリー。俺はもう過去を振り返らない。例え消し去りたい過去であろうとも、あの過去があったからこそ、俺はリカルドに会え、この力があったからこそこいつらに巡り会えた。だから、俺は後悔しないし、過去を振り返らない。俺には今があるからっ!!
叩きつけたリリーの反動を生かし、ガラスを思いっきり蹴り飛ばして再び空中へと浮き上がる。そして落下する力を利用してもう一度回転をかけながら操縦席のガラスにリリーを叩きつけた。リリーの強烈な攻撃を二回も喰らい、操縦席のガラスにはヒビが走っていた。もう一度。もう一度あれば砕く事が出来る。
 
 
「俺は過去を乗り越える!あんたがあの時俺を人形と呼んだことも、俺が殺戮人形だったことも、全てを越える!」
 
 
操縦席のガラスを蹴飛ばして地面へと着地し、リリーを握り締めて技のイメージを膨らませる。全てのものを呑み込む光の鉄槌…。
 
 
「行くぜ…リリー…」


――哭白なる咆哮よ、全てを打ち砕き聖なる裁きを!――
 
 
リリーが声高らかにそう叫ぶと同時に、俺の足元に眩く光る金色の陣。その光が一切の視界を奪い去る。
 
 
「堕ちろ、鉄槌!クリアークロスター!」
 
 
金色の陣が一際凄まじい光を放った瞬間、晴天から光の剣がギガンテスに降り注ぎ、その機体を囲むように貫いた。
 
 
「あわわわわ!爆発してしまう!!逃げないと…。ひいいいいいっ!爆発してしまう…!」
 
 
光が消えない内に慌てだすブタバルド。その姿はやはり醜く、愚かだった。あれだけ他人を傷つけたのに、自分は今この瞬間も醜く生き残ろうとしている。だが、甘い。
 
 
「お前は脱出なんて出来ないよ…」
 
 
右手の指をぱちんと鳴らすと、ギガンテスを貫いていた光が一気に輝き、拡散し、ギガンテスの機体を切断した。そしてその光は残酷な事にブタバルドの乗っている操縦席だけ残していた。
 
 
「さようならだ、お前に天国はないがな」
 
 
バラバラと細かくなった機体と共に落ちていく操縦席。その中にはまだ生きているであろうブタバルドが乗っているだろうが…、俺は構わない。あいつにはこれくらいの死に方が丁度良いだろうよ…。人を人として見ず、自分の事だけしか考えない人間の末路には、ぴったりだろう…。
 
 
「少し残酷だったか?」
 
 
みんなを振り返るのが怖かったが、思い切って振り返ると、案外普通の反応を返してくれた。どこか優しそうな雰囲気もあって、拍子抜けしてしまった。俺は何も感じないが、もしかしたら他の奴は、と考えていた俺が馬鹿らしくなってしまった。
 
 
「ラスティの行った事は確かに端から見ればそうだけど、僕たちだってオズバルドを許せなかったんだ、だから…」
 
 
だから、誰も君を責めないよ。
ルカの優しげな瞳はそう言って俺に微笑みを向けてくれたその視線は本当に温かくて、何だかむず痒かった。こんなに温かな場所にいた事が無いから、照れくさくて…。
気恥ずかしくなった俺は、リリーを鞘に収めて背負うと、みんなに背を向けて階段を一気に駆け上がることにした。こんな恥ずかしいところ、見せられるかよ!
 
 
「ラスティ!待ってよー!」
 
 
後ろから困ったような、でも嬉しそうな声が聞こえてきて、ルカたちが階段を駆け上がる音が耳に届いた。
 
 
――恥ずかしいの?――
 
 
リリーが楽しそうにクスクスと笑い、俺の事をからかってくる。でも、今はそんな言葉に一々返事が出来るほど余裕は無い。俺は今誰にも顔を見られたくないのだ。いつものように冷静にならなければ!顔が熱いとか、そういうのは気のせいだ!深呼吸をすれば、きっと直るに決まっている!
 
 
――素直じゃないの。さあ、ラスティ…、後はマティウスを倒すだけ。私たちの望みを叶えましょう――
 
 
ああ、わかってるよ!最終決戦だ!!
 
 
 
 
 



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