「夏目って、苗字さんのどこがいいの?」


お箸に挟んだお弁当のおかずがぽろりと落ちた。

ちらちらと苗字を視界に入れていたから、苗字の名前が出てきて驚いたのだ。


「え……どこって?」


「かわいいとか綺麗とか美人とか」


「…西村は容姿ばっかだな」


びしりと西村に箸を向けられる。
人に向けるなと口をひらこうとした時、誰かに肩をぐいっと引かれ椅子から落ちそうになった。


「夏の字は苗字さんが好きなのか!」


「つ、辻!声でかい!」


にやにやと厭らしい笑顔を浮かべる辻の口を西村が塞ぐ。

おれはしばらく呆けていたが、ふりふりと首を振って意識をもどした。


「………どこだろう」


おれは苗字のどこを好きになったのか。

ううむ、と考えこめば2人は少し呆れた顔になっていた。


「夏目には悪いけどさ、苗字さんて、なんていうか、………普通だよな」


「まあいい子だけど」


「…そうか?」


「可もなく不可もなくだろ」


そう言って西村はおれのお弁当に箸を近づけた。
軽くその手を叩くと、渋々箸を引っ込めた。

可もなく不可もなく、たしかに苗字はそうかもしれない。

でも、おれにとっての可ってなんだ?不可ってなんだ?


「そもそもなんで好きになったんだよ」


「…だったら、西村もタ――」


「わあああ!」


顔を真っ赤にした西村に頭を叩かれる。

隣で、辻が「た?」と訊いてくるので答えようとしたら西村に弁当を取られおれの敗北。

「つ、辻は好きな人いないの?」


「おれ?…んー…」


タキの名前をだされるのが嫌なのか、西村は辻に目標を変えた。
…おれは西村にばらされたんだけれど!

2人が好みのタイプについて熱く語り合い始めた。

話に混ざれないおれはさまよう視線を苗字へ向ける。


「…からあげ…」


苗字の持つお箸に挟まれたからあげ。

嬉しそうにそれを見る苗字からして、からあげが好きなんだとわかる。

おれも、搭子さんに入れてもらおうかなと苗字から目を離したとき、にやつく2人と目が合った。


「…な…なんだよ…」


「そんな熱っぽい視線を向けてると気づかれるぞ」


もの凄く2人を殴りたいとか、もの凄く恥ずかしいとか、そんな感情が入り混じる。

とりあえずむかつく顔の辻は叩いておいた。

…おれ、そんな見てたかな…。


「ある意味ストー…ごめんごめんごめんごめんごめんごめん」


西村を睨みつけ拳を構える。
焦った西村がぶんぶんと手を左右に振った。

本来拳骨をチラつかせるのは趣味じゃないんだ。

そう言えばそんな馬鹿な!と辻に笑われた。
……。


「でもさ、夏目」


「ん?」


急に西村が真剣な顔になるから少し意気込んでしまった。

けれど、すぐにいつもの顔に戻る。

結構格好よかったのにと思いながら、お茶を少し口に含んだ。




西村の言葉でお茶を吹き出したのは別の話。



嬉しかないけど
公認ストーカー



 


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