「夏目、散歩がしたいぞ」
というニャンコ先生の言葉により、おれは散歩に来ている。
まあ、散歩は毎日のようにしているから問題はないのだけれど。
ない、けど。
「かわい―っ!」
「と、透ちゃん…苦しそうだよ…」
「(なぜタキが…それに、苗字も…)」
目の前にはニャンコ先生を抱きしめるタキに、おろおろしている苗字がいる。
なぜ一緒なのか、それは数分前のことだ。
おれとニャンコ先生が歩いていたら、道端でタキと苗字に会った。
そしたらタキがニャンコ先生に飛びついて離さなくなってしまい、今に至る。
タキと苗字は一緒に出かけていたらしい。
「(まあいいか…)」
ちらりと苗字を見る。
制服ではなく私服に身を包んだ姿は新鮮だった。
かわいいとか、綺麗とかは思わなかったけれど、ただ凄く似合っていると思った。
「ごめんね夏目くん。透ちゃんが…」
「あ、いや…気にしないで」
にこ、と遠慮がちに苗字が微笑んだ。
白い肌がほのかに赤くなっている。
…ただでさえおれは笑顔に弱いのに、赤くなられたら…。
手のひらを頬に当て、熱を冷ます。
なかなか冷めなくてため息を吐いたら、それを苗字に拾われてしまった。
「や、やっぱり迷惑?」
「ち…!…違う」
本当に違う、と付け足す。
苗字は少し不満気だったけれど、小さく頷いてくれた。
「透ちゃん。そろそろ離してあげなよ」
「…あと、少し」
苗字がため息を吐く。
そんな姿さえかわいらしいと思うおれは、末期というやつなのか?
へにゃりと眉を下げた苗字が、申し訳なさそうにおれを見上げる。
それに応えるように首を横に振ると、苗字は満面の笑みを向けてきた。
…かわいい。
「……、だめだ……」
はーっと長く息を吐いてみる。
せっかく冷めたのに、頬の、ね、つ…が…。
「…夏目くん、大丈夫?」
ぐい、と服の袖を引かれた。
首を傾げた拍子に黒い髪が苗字の頬に散る。
桃色のくちびるの動きが、スローモーションに映った。
かああぁあと、それはもう勢いよく顔全体に熱が広がる。
「だっい、じょうぶだ」
ふい、と顔を逸らし遠くのニャンコ先生を見た。
ああ、結構間があいていたのか。
―――苗字の顔が、見れない。
見たら、なんかこう、だめだ。いろいろ。
「あいだ、あいてる。…行こう」
「あ、…そうだね」
ゆっくりと足を踏み出すと同時に苗字も歩きだした。
故意かどうかわからないけれど、ニャンコ先生とタキに追いつくまで苗字はおれの服の袖を掴んでいて。
…死ぬかと思った。
小学生かよ
ばか、意識しすぎ
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