「夏目くん」


振り返るよりも先にどくりと心臓が震えた。

緊張しているのか、指の先が冷たくなっている。


「、苗字、?」


おれはニャンコ先生に頼まれ、お団子を買いに寄り道していた。

ちなみに下校中。

聞き慣れていない(いまだにどきどきする)苗字の声に、ばくっと心臓が跳ね上がった。

そろりと振り返れば苗字が遠慮がちに微笑んでいて。


「…ど、うした?」


「この猫なんだけど」


「っニャンコ先生!?」


苗字の腕に抱かれにやにやにやつく、でぶにゃんこ。

ニャンコ先生と苗字を交互に見つめれば、苗字の頬に赤みが。
…ちょっと、いやかなり倒れそうだ。


「ニャンコ先生?」


「あ、…いや、そいつの名前」


「そうなんだ」


苗字からニャンコ先生を受け取り礼を言う。

照れているのか、頬を染め目を逸らされた。


「…か、……どうしてこの猫がおれのってわかったんだ?」


「透ちゃんが夏目くんのだって教えてくれたの」


透ちゃん、て……………あ、タキか…?

そういえばタキはニャンコ先生をかわいいと言っていた。

…かわいいか?


「…でもこうやって見ると、かわいいね」


「…な、に」


叫びかけて、なんとか口を噤む。

…苗字に向かって叫ぶのは、かなり嫌なものがある。

撫でてもいいかと訊かれたから了承すると、苗字はおれに一歩近づいた。


「不思議な顔だね」


「っ、こ…れはブサイクっていうんじゃないか?」


苗字の手がニャンコ先生の頭を撫でる。
手、…綺麗だな、と思ってはたと気づく。


距離が縮まっ、てる。


途端に呼吸ができなくなるおれ。
ああもう…呼吸ってどうやるんだろうか。


「…透ちゃんが夢中なのもわかるなあ」


「…え」


「ニャンコ先生、…かわいい」


そう言って苗字がふわりと笑う。

時が、止まった気がした。







ニャンコ先生よりも、おれに夢中になってほしかったな…。

呟いた言葉をニャンコ先生に拾われ、夜になるまでからかわれるはめになってしまった。

もう独り言はしない。



時間がかかっても
きっと夢中にさせるから



 


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