これが恋だと気づいたのは、最近。

西村のおかげで、気づくことができた。


『夏目さ、最近よく苗字さんのこと見てるよなー』


この言葉が、ことの始まり。

いつもは気のせいだと流せていたのに、その時おれはそれができなくて。

どうしてだ?と自分に訊いてみる。
答えは、たぶんおれが思うに、苗字を見ていたことが真実だから。

だんだん熱を帯び始めた頬が不思議でたまらなくて。

どうして見てるんだ?、と北本に訊かれ、さあと曖昧に答えたのを覚えている。


『…気づいたら、見てる』
『そ、それって!』
『待て西村。…夏目、お前苗字を見てどきどきするか?』


今思えば、おれはどうしてあれに素直に答えたんだろう。

あそこで答えなければ西村にからかわれることは…いや、苗字を好きって自覚できたからいいか。


「おーい、夏目ー」


西村の声がする。

振り返れば、北本と一緒にいる西村がいた。
おれのほうへゆっくり駆け寄ってくる。


「…なんだ?」


「ほら、あっちに苗字さんいるぞ。行かないのか?苗字さっ…」


「おっい、西村…っ!」


彼にこれほどまで殺気を感じたことはない。

西村はにやにやと厭らしい笑顔を浮かべていた。
ニャンコ先生に似ていて殴りたくなったけれど、我慢。

とりあえず苗字を目で探してみた。

教室の窓際で友達らしい女の子と話をしている。

苗字の柔らかい笑顔は、すごくかわいいと思う。

…2人は、そう思わないらしいけれど。


「…夏目の目、最近優しい色になったよな」

「優しい色?」


北本と西村が何か話しているようだ。
よく聞こえない…。

…まあいいか。
苗字を視界に捉えながらおれは人知れず笑った。


「苗字さんを見る目、すげえ優しい色してる」



チューブに詰めた
この恋、きみ色。



 


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