体をゆさゆさと揺さぶられる感覚がして、重たいまぶたをこじあけた。

おれを静かな眠りから覚まさせたのは、前の席に座る西村だった。


「…、?」


西村がくい、と顎を黒板に向ける。

何かと思って顔をそっちに向ければ、その先にいたのは苗字で。

苗字は白いチョークを持って黒板の前に立っていた。
問題がわからないのか、つっ立っている。

ついというか、なんというか…おれは苗字を見ると無意識に頬が緩む。
かわいいな、…といつの間にか思っていて。

…にしてもどうして西村が?
……まさか、!


ばっと西村のほうを見れば、にやりと笑われる。

かあっと頬に熱が集まったのを感じる。
西村はそのまま、辻の肩をつつこうとしていた。

…あの顔は、辻にバラすつもりの顔だ!

そう思うと、熱い頬が急に冷たくなった。
今にも振り向こうとする辻を見ていてもたってもいられなくなる。

つい叫んでしまった。


「にっしむらあっ!」


――…静寂。

固い首を回せば、青筋立たせた先生がおれをすごい形相で睨んでいた。


「す、すみません…」


軽く頭を下げて西村を睨めば、あいつはくすくすと笑っていた。
…のやろう。あとでアイス奢りな。

恥ずかしいところを見られた。
…まあ、寝てて怒られるのはいつものことだけれど。

そんなことを思いながら苗字を横目で見る。


見た瞬間、おれの全動作が止まった。
心臓がぐっとなって激しく跳ねだす。

原因は簡単だ。


苗字がおれのほうを見ながら、優しく微笑んでいたから。


頬に熱が集まり、心臓が落ち着かない。
…呼吸が乱れる。
耳の奥から血の流れる音が響いてきてうるさい。

ごくりと生唾を呑み、視線を逸らす。
頬の赤みと、口元のにやけを隠すために手を当てた。

西村の含み笑いが聞こえた気がする。


僕はすでに、
残念ながらべた惚れ



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