川西くんがいう弱っているわたし。
環境の変化による疲れで精神的に弱っていたのだろう。
…最近はこの世界での生活にも慣れてきたとは思っていたのだけれど。
気づけなかった。


「(そういえば、仕事を覚えるために徹夜続きだったんだっけ)」


だからあんなに寝続けてしまったのだろう。
迷惑をかけてしまったなあ。
…ごめんね、保健委員会さんたち。

肩にかかる布団を口元まで上げ、ゆっくりとまぶたを閉じる。
今寝たら何時頃起きるだろう?
今日みたいに何日後っていうのは嫌だ。
欠伸をひとつすると、意識がだんだん揺らいできた。
……保健室の布団は、寝心地がいいな、あ……。



「―――失礼する!」



スパーン!という音に、閉じていたまぶたがばちっと開いた。
突然のことにびっくりして、心臓がばくばくしている。
後ろで川西くんが「潮江先輩!?」と慌てているのがわかった。
……潮江くん?


「せ、先輩!苗字さんは病人ですよ!」

「酔い如きで病気も糞もあるか!」


酔わせたのは潮江くんなんだけれど。
ゆっくりと体を起こして二人のほうを見る。
潮江くんは上着を脱いで袴と袖なしの姿だった。


「……こんにちは」

「ね、寝ててくださいってば!」

「川西うるせえぞ。病人の前だ」


…それさっき川西くんが……だめだ。
わたし潮江くんには何も言い出せない。
そんな自分に苦笑を漏らしつつ、潮江くんを見た。
ゆっくりと目を伏せて口を動かす。


「…ここまで運んでくださり、ありがとうございます」

「…お礼なんて結構です。それより、伊作に聞きました。最近弱っていると」


布団の傍に潮江くんが腰を下ろした。
次いで川西くんが潮江くんの後ろへ座る。


「はい。…わたし自身気づきませんでしたけれど」


川西くんに言われて気づいた、わたしの精神的な変化。
…前は、環境の変化などで参ってしまう体質ではなかったのだけれど。
トリップ後の体の変化というものか?

…まあわたしの場合、それはないだろう。
トリップ後は、メンタル面でもいろいろ辛かったし、そこに疲れも加わったのだ。
寝不足もあったし。


「…不覚でした。ただの疲れで、申し訳ない」


仕事、小松田さんがやってくれたのだろうか?
失敗して、吉野先生に怒られている姿が目に浮かぶ。


「そこでです、苗字さん」

「…なんでしょう?」


キリッと睨むように真剣な顔を作った潮江くんが、膝の上で拳を握りしめた。
そんなに力んで、どうしたのだろう。


「是非とも私とお手合わせ願いたい。弱っているのも、近頃体術を行っていないせいではないですか?」


  

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