目をあけたとき、真っ先に飛び込んできたのは、黒い服を着た男のひとだった。
数回まばたきをして、揺れる男のひとの顔にピントを合わせる。
ここはどこだろう。
「…気分はどうでしょう、苗字くん」
「…?」
だんだんと景色もはっきりしていき、その男のひとが誰なのかもわかった。
学園の校医、新野先生だ。
新野先生がいる、ということは保健室か。
けれど、わたしはどうして保健室に?
「軽い脳震盪を起こしたようです」
「…は、あ」
脳震盪、……あ、神崎くんと一緒に穴へ落ちたときだろうか。
あのとき強く頭を打って、…そこで気絶したんだっけ?
「綾部くんと神崎くんが運んでくれました。長屋に戻しましたが、会ったらお礼を言うのですよ」
「…はい」
新野先生の優しい笑顔に、心がほっとした。
体を起こすと、額に乗っていたのか濡れた手拭いがぽとりと落ちてきた。
それを取ろうと腕を伸ばしたとき、新野先生の手が伸びてきて手拭いを掴んだ。
「しばらく安静にしていてください。私はこれを冷たい水と変えてきますから、寝ててくださいね」
「…はい」
そう言って先生は立ち上がった。
わたしはその様子をぼーっと見ていたが、ぱたんと障子の閉まる音がしてはっと我に返った。
「…穴…埋め終わってなかったのに…」
新野先生の話では綾部くんは長屋に戻ったようだけれど、わたしが穴に落ちたあとだから…すべての穴を埋め終わってないはずだ。
だとしたらあの穴はどうするのだろう。
「…っ、」
背中を丸めようとしたとき、ずきりと痛みがはしった。
背中をさする。
けれど、さすった部分が逆に痛くなった。
「落ちたとき…痣できちゃったかな…」
思えば、体のところどころ、布団に接している部分がところどころ痛い。
座っていても痛いとは、不便なところに痣を作ったものだ。
ため息をついて、静かに横になった。
「いたい…」
神崎くんは無事に長屋へ行けただろうか。
…まあ、綾部くんがいるのだから大丈夫だとは…まさか意地悪してないよね…。
ああそれにしてもどうしてわたしったら脳震盪なんて起こしたのだろう。
神崎くんが、自分のせいだと勘違いしなければいいのだけれど。
「……、」
眠い。
布団に入っているからなのか、非常に眠たくなってきた。
まぶたが開閉をゆっくり繰り返している。
…新野先生は寝ていろと言っていたのだし、寝ても文句は言われないはず。
わたしはまぶたを完全に閉じて、まどろみを深めていった。
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