「ん?相談?」


火薬の在庫表を片手に、土井先生が首を傾げる。
わたしもその在庫表を受け取りながら、はいと頷く。
土井先生はどことなくうれしそうに微笑すると、わたしの背中をたたいた。


「名前くんから相談なんて、なんだか新鮮だなあ。彼女はなんでもできたから」


背中をたたく手が頭に触れ、優しく撫でる。
土井先生は、…というより教職員のみなさんは、わたしの前で名前さんの名前を呼ぶことがなくなった。
たいてい彼女とか、あのひととか。
わたしに対する小さな気遣い。
気づいたときはちょっと涙ぐんだものだ。


「それで?なんだい?」


在庫確認は後回しだ、と土井先生がわたしの手元から在庫表を奪いとって微笑んだ。
…なんて男前なの。





「…小松田くんがそんなことを…」


ふむ、と顎へ手をかけたその姿はとても格好よくて、すこしだけ見とれた。
すぐに頭を振り、わたしは何度も頷いた。


「たしかに楽にはなると思います。
…でも、ほんとうに嫌われたりしないでしょうか?」


煙硝蔵のど真ん中、わたしは土井先生へ向き直る。
土井先生は学園の教師だ。
だから彼らのことをよく知っているだろう。
わたしも小さいころ、土井先生みたいなひとを憧れたなあ。

なんて思いながらわたしは土井先生を見つめていた。
先生はいまだ黙ったまま。

真剣に考えていてくれているなら、うれしいけれど。


「…せんせい…?」

ぱっと先生の目の前で手をふる。
土井先生、すごく遠いところをみていた。
ある意味意識飛ばしてた。

わたしの手に意識を戻した土井先生は、ぱちりとまばたきをすると、ふりふりと顔を振った。

一度静かに唸ってから先生はわたしをみた。


「…その可能性は低いな」


そう言って先生はわたしから目をそらし、在庫表を見つめだした。

……ええっと、つまり嫌われる可能性は低いってこと…?
それとも逆?


「でもしばらくは、様子をみたほうがいいかもしれない」

「様子見…ですか」

「じっくり考えるといい。私も学園長先生と話し合ってみるよ」


じゃあ再開しようかとわたしの頭を撫でた。
わたしがお礼も兼ねて笑顔を見せると、土井先生も笑ってくれた。

  

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テーマ「人外ファンタジー」
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