「ここだよ」


しばらく歩いてたどり着いたのは、薄紅色の布を屋根に敷いた小綺麗なお店だった。
さっきのお団子屋さんの周りは、商店街みたいに賑わっていたけど…こっちはだいぶ落ち着いている。
でも斉藤くんが選んだお店ってことは、過疎化してるわけじゃないんだろう。
てっきりここにくる途中で見た少し派手な小物屋に行くと思っていたから、驚いた。


「こういう地味なお店の方が案外いい物売ってるんだ。特に櫛とか紅はね」


そうなんだ、と頷きながら手を引かれる。
最初はどきどきしていた心臓も今ではすっかり落ち着いている。
艶やかな赤いのれんをくぐると、途端に甘い匂いがわたしを包む。
すんすんと匂いを嗅いでいると、どうやらその匂いの元は小さな巾着かららしい。
匂い袋だ。
手前にあった黄色の巾着を手にすると、動かした風でふっと匂いが舞った。


「山吹の匂いだ」

「山吹…だから黄色なんですね」

「いい匂いだね。気に入った?」


小さく頷いて匂い袋を元に戻す。
いい匂いだけど…わたしはあんまり香水付けなかったし、匂い袋も必要ないかな。
それにちょっと山吹の香りは鼻に痛い。


「えっと髪紐でしたよね」


匂い袋を見始めてしまった斉藤くんの手を引き、髪紐の並んである棚へと向かう。
展示の仕方が、今のネックレスみたいでおしゃれ。
いろんな色の髪紐が、グラデーションに沿って並んでいる。
にんたまは基本的に白い髪紐だけど、くのたまの子はわりと赤い髪紐やピンクの髪紐をしている。
いつも制服でおしゃれができないから、髪紐だけでもって色付けてるのかな。
わたしなんかは毎回違う服を着なきゃ、っていう焦りになるから制服のほうが好きだけど…。


「髪紐もこうやって見れば綺麗なものだよねぇ。俺は白しか使わないけど、女の子は色付いてるほうが好き」

「…そうなんですか」


よし今のくのたまに教えてあげよう。
くのたまと全然交流がないけど、この話題できっといける。
そしていつか一緒にお風呂に入るんだ…。


「名前ちゃんみたいな髪にはいろんな色が合うんだよ〜」


斉藤くんの指が髪に触れた。
びくっと肩が跳ねる。
び、びっくりした…!
わたし、髪切る時は絶対に女の人に任せてたから男の人に髪触られるの初めてだ。
なんていうか、違う意味でゾワゾワする。
固まるわたしに気づいた斉藤くんは、謝りながら手を離した。
…くのたまたちはこうやって髪に触ってもらえるように、試行錯誤しているんだろうか。
髪のケアなんてしたことないから、なんだか申し訳ない…。


「こんなにあるなら、梅色じゃなくていいかも…!」


心なしか目が輝いているように見える…。
斉藤くんは若干鼻息荒く髪紐を手にとると、次々とわたしの髪に合わせていった。
…その姿が、友達と重なって。

買い物をすると性格が変わるんだよね。
突然呼び出されたと思ったら、そのまま買い物に。
唖然としたまま終わってたなあ…。
今は名前さんを振り回しているんだろうか?
そう考えると、なんだかちょっと寂しくなった。


「元気かな…」

「え?」

「…あ、いや、なんでもないです」


心の中で言ったはずが、ついポロリと口から出た。
斉藤くんが不思議そうに見ている。
…もし戻れるたら、真っ先に会いに行こう。
オレンジ色の髪紐を手に取って、見えないように笑った。

 

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