ああ、つい頷いてしまったわたしが憎い……というか元々約束はしていたみたいだし、仕方ないか。
じゃがいもを一口大の大きさに切りながら、わたしは斉藤くんのあの愛らしい笑顔を思い浮かべた。
あんな顔されちゃあ…どんな鉄仮面野郎でもにやついちゃうよね。
にんじんを掴み、包丁を入れた。
そういえば、次のお休みっていつだろう。
曜日とかわからず過ごしてきたけれど…。
「おばちゃん、次のお休みっていつですか?」
「お休み?ああ、名前ちゃんはまだわからないわよね。明日よ」
…なん…だと!?
驚きで手に力が入り、にんじんが真ん中でざくりと切れた。
あ、にんじんはいちょう切り…じゃなくて!
「明日…!?」
どうしよ、あと2、3日後くらいだと思ってたのに明日!?
明日まで時間もない!
服…は、これじゃ駄目だよね…小袖ってやつかな?
着付けでっきねえぇ。
ああ習っておけばよかった!
「お、おばちゃん…」
「なんだい?」
「この後、着付けを教えていただけないでしょうか…」
「あら、」
おばちゃんが申し訳なさそうに眉を下げる。
こ、この反応は…!
「ごめんなさいねぇ。あたし今日はちょっと忙しいのよー」
すぐさま目をかっぴらいて「手伝います」と言ってみたものの、丁寧に断られた。
これはまずい、と思っていたら食堂の入り口が少し騒がしくなってくる。
わたしは慌てて背中を向け作業を進める。
「(こうなったらシナせんせ…あっ!シナ先生今日いない!)」
事務員のおばちゃんも今日は吉野先生に頼まれてお使い。
………わたしさあ、保健委員会に入っても違和感ないんじゃない?
軽く涙を浮かべて自嘲気味に笑った。
「おばちゃんA定食ー!」
「はいよー!」
なんてことをしていたら、にんたまたちが食堂に入ってきた。
急がないと間に合わない。
わたしは至急いちょう切りに挑んだ。
*
「ふー…」
何事もなく食堂のお手伝いは終わり。
生徒たちもわたしの存在に気づいていたようだったけど、話しかけてはこなかった。
ちょっと悲しいけど助かった。
おばちゃんは仕事が終わるとわたしに挨拶をして足早に食堂を去っていった。
戸締まりはわたしの役目。
「…どーしよ…」
裏口の戸を閉め、木の棒を挟む。
事務員の装束ですらいまだきちんと着れないわたし、着付けを自分でできるはずがない。
見様見真似でもきっと無理だ。
「誰か…着付けができる人…………………………あ、」
そうだ、土井先生!
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