そしてわたしは今、校庭にいる。


「お願いします!」


いや仕方ないよ。
あんな期待の眼差しで見られちゃさ。
わたし体術なんてやったことないけど、名前さんは相当強かったんだろう。
鉢屋くんの憧れだし…?


「どうせまた文次郎が負けるさ」

「だろうな!ボッコボコだ!」

「苗字さん!文次郎をブッ飛ばしてください!」

「うるせーぞ外野ッ!特に留三郎ッ!」


後ろには六年生の面々と他学年が数人いる。
わかる限りは、綾部くんと鉢屋くん、……鉢屋くん!
わたしの正体を知っている唯一の生徒!
助けて!わたしに体術なんてできっこないよ!

だが鉢屋くんはちょっとわたしを睨んで隣にいる…不破くん?と喋っていた。
……まあ、助けてくれるわけないよね。


前を見れば構えている潮江くん。
まさかのバットエンド…死亡フラグ…。
せめてあの夢主みたく回避能力があれば…。


「シッ」


潮江くんが足を振り上げた。
――は、…ハイキック!?
いきなりわたし死ぬ!
顔横にすごい速さで向かってくる足。
こんな実況やってる暇はないが、やるしかない。


「、っ…」


膝をがくんと折る。
潮江くんの足は空気を蹴った。


「………………む、」


っぶなあああ!
つかむむむ無理だあって!
なんとかギリギリって感じだし!
あああこんなことなら川西くんの言うこと聞けばよかった…!
数分前のわたしをひっぱたいてやりたい。


「避けるなんて珍しいですね」

「………し、潮江くんこそ蹴りなんて珍しいです…ね?」


これで珍しくなかったらどうするんだ。
でも、ああ聞いてくるってことはたぶんあっちもいつもと違う技をかけたってことのはず!
恐る恐る潮江くんを見れば、隈のある目を細めニヤリと笑った。


「苗字さんを真似て鍛錬しました」


名前さんあんた蹴り得意だったの!?
真似されるほど巧かったの!?
…無理だ。
わたしハイキックっとかやったことない。
…足払いはあるけ、ど、


「っぅお!?」


ためしに少し屈み、ちょいと足払いをする。
すると、潮江くんは案外簡単にふらついた。
………お?


「あぶね……うわッ!」


昔みたハイキックガー…なんとかの女の子を頭で思い浮かべ、勢い良く足を振り上げる。
すると潮江くんはさっきのわたしのように慌てて屈み避けた。

……まさかトリップと共に運動神経抜群になったとか!?
ちょ、かなり嬉しいんだけど!
潮江くんから目をそらし、遠くの木を見つめる。
何故か潮江くんは構えたけど、…違う違う闘うわけじゃないですって!

ぐっと足に力を入れ走りだす。
目指すはあの木――…ってうああああああああああああ!


ゴッ!


走りだすわたしに向かってなぜか走ってきた小松田さん。
予想通りぶつかった。
小松田さん、小松田さん、あなたそんな俊敏に走れたのね。
さっきまで、かなり遠くにいたのに。

 

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テーマ「人外ファンタジー」
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