ゆらゆら、ゆらゆらとからだが揺れている。
優しく揺れている。
ブランコに乗っている気分だ。
…この時代に、ブランコなんてないだろう。
久しぶりに遊んでみたい…。
重たいまぶたを押し上げて、数回まばたきをした。
ピントがズレて、景色がぶれている。
…さいきん、よくこういう出来事がおきるなあ。
目の前になにかある。
なにがあるんだろう。
わたし、穴に落ちたはずだから、…空?
ゆっくりと腕を伸ばし、手で触ってみる。
…あれ、空だったら、さわれない、はず。
「!うわ、なにするんですか苗字さん!」
ばちんと頭を叩かれたように目が覚めた。
意識もちゃんとしていて、ピントもズレていない。
改めて目の前のものを見つめて、飛び込んできたのは目の下に隈をつくったお兄さんだった。
「…し、しおえもんじろう、…さん」
「起きたのならそう言ってくださいよ」
いやちょっと待て。なんでわたし潮江くんに、おひめさ、いつの間に!
自分が置かれた状況を瞬時に理解した。
一気に顔に熱が集まってくる。
「苗字さん、綾部が掘った穴のなかで熟睡してましたよ。疲れてたんですか」
「え、えと、いやあの」
潮江くん越しに見た空は暗い。
月も星もでている。
……仮眠のつもりだったのに!
どうしよう…!
まだ仕事が残っていたはずだ。
小松田さんごめんなさい!
明日の仕事はぜんぶわたしがやります!
「あんな寒いなかいて風邪でも引いたらどうするんですか」
「あ、えっと、すみません」
「一応保健室行きますよ。…新野先生と伊作いっかなぁ…」
ぼそぼそと、なにか呟きながら潮江くんが歩く。
降ろしてほしいと声をかけたら隈のある目でぎろりと睨まれ、いや見ただけなんだろうけれど、なにも言えなくなってしまった。
わたしはひたすら我慢して、潮江くんの顔を見ないように目を瞑った。
…はやく着いて!
再び(8/22)
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