「名前ちゃ〜ん」


からりと突然障子がひらいた。
この、間抜けな、でも心地よく優しい声は、


「…小松田さん…」


わたしと鉢屋さんの声が重なる。
そして、緊張の糸が切れたように鉢屋さんの顔が破顔した。


「…あれっ!?ふわ……鉢屋三郎くん!?……あ、ああーああ〜ごめんねえ…タイミング悪かったかなあ〜…」


何を勘違いした。

小松田さんはわたしと鉢屋さんの顔を交互にみたあと、頬を赤らめて微笑んだ。
相変わらずかわいいですね…じゃ、なくて。


「小松田さん、あの、違う、誤解です」

「っていうか鉢屋くん!名前ちゃんは病み上がりだから、そっそそそ、…そういうことはねぇ〜!」

「だから、違いますってば」


チャンスだとばかりに鉢屋さんから離れ、小松田さんに近寄る。
背中に浴びる視線は痛いけど、気にしない。
だって小松田さんはわたしを知ってる、わたしの正体を知ってる。

まだ少し震える手で、小松田さんの装束を握る。
ばくばくしていた心臓はおさまったけれど、どきどきと早い鼓動をうっていた。


「……名前ちゃん?」


わたしの手が震えていることに気づいたのか、小松田さんが心配そうに顔を覗き込んできた。
強張る頬を、わたしは精一杯つりあげて口を開いた。



「…ばれ、ました」



小松田さんの、笑顔が消えた。

天才(8/16)

  

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