自分より数倍も背の高い人間と唇を重ね合わせるのはとても難しいものである。相手が少しでも屈んでくれさえすれば、届く可能性は高くなるけれど、この人はそんな優しさなど持ち合わせてなく、逆に背伸びをして遠ざけるのだ。

「っ、」

届かない。爪先立ちに近い背伸びで精一杯唇を寄せるものの、形のいい彼の唇には近づかなかった。

「届かないんだ」

私の体を引き寄せ自分の体と密着させたリンクが、にやにやと厭らしく笑う。元より火照ってきていた頬が、かっと熱くなった。わかってやってるくせに、むかつく。

「リンクが少し屈んでくれれば届くよ」

たぶんと心の中で付け加え、リンクを睨みつける。けれどリンクは気にした様子がなく、ふぅんと呟くだけだった。こ、こいつ…!届かないと確信してやがる…!

「い、意地だ!意地でもキスしてやる!」
「はは、嬉しいなあ」

爽やかな笑顔を浮かべたリンクの青く澄んだ瞳と目が合う。むかつくくらい恰好いい。なぜか悔しくて、悔しくて唇を噛んだ。…そうだ、背伸びで届かないのなら、無理やりリンクの顔を近づければいい。

「リンク」
「なに?」

首を傾げるリンクの首筋に手を添える。よかった、手はなんとか届いた。よし、とそのままリンクの顔をこちらへ寄せ、私もそれなりに背伸びをし、リンクの唇と唇を重ねた。

「ど、どうだ!」

軽く重ねたあと、素早く唇を離す。届いた、届いたと喜びを顔に出し、自慢げに笑顔を作る。ああされるとは思っていなかったのか、リンクは目を見開いて私を凝視していた。しばらくして我にかえったのか、はっとしてから顔をふにゃりと破顔させた。

「……」
「り、リンク?」

破顔させたリンクが、私を抱き締めて肩に顔を乗せる。深くため息をつくと、小さい声で呟いた。

「…不覚にも、ときめいたよ」

私と目を合わせたリンクは、なんとも情けない顔をしていて、尖った耳がほんのり赤くなっていた。そして私の頬に唇を押しつけると優しい声で囁いた。

「…名前のキスなら、俺、どこにされても嬉しい」




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