雲雀さんの髪は真っ黒できれいですねとわたしは言った。今考えればとても恐ろしいことだけれどそう言いながら私は雲雀さんの髪に触れていたのだ。指の間をスルスルすり抜ける雲雀さんの細い髪は、一本一本がほんとうに真っ黒で羨ましかった。友人はみな茶髪がいいと言うけれどわたしは黒髪のほうがいいと思う。日本人の特徴とも言える黒髪。ああ羨ましい羨ましい。あいにく私の髪の毛は純粋な黒とは言えなくて、茶髪に近い。焦げ茶色というものだ。だからと言って染め上げる気はさらさらない。好きではないもののそれなりに好いているからだ。それでも雲雀さんのこの黒い髪は羨ましい。いつしかわたしは雲雀さんの髪を触るのが日課になっていたのだ。二回目だが今考えれば恐ろしいこと。あの時の雲雀さんは何も言わなかったからなあ。ぺたっとしていてさらさらな黒髪。目にかぶるほどの前髪も今じゃばさっと切られずいぶんとスッキリした。そういえばハルちゃんも真っ黒な髪の持ち主だ。羨ましい。雲雀さんとお揃いなんて。あ、雲雀さんの髪。久しぶりに触ってみようかな。咬み殺されるのは嫌だけれど。私はゆっくりと手を伸ばしさらさらの髪を指に絡めた。

「…耽っていると思っていたけれど、髪のことを考えていたのかい?」

「…あ、えっと、黒くてきれいだなぁと…」

スルスル指の間をすり抜ける。まるで水のようだ。しかしすぐにわたしの手は掴まれて髪から遠ざけられた。ああ私の愛しい髪。なんて言ったら雲雀さんに咬み殺されてしまうかもしれないから言わないけれど。とりあえず重なっているくちびるが離れたらどうしようかな。

「名前の髪だって黒くてきれいだよ」



黒髪。
(これは黒髪とは言わないのです)




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テーマ「人外ファンタジー」
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