たとえどんなに男への興味がなくたって。
ミーハーじゃなくても、親衛隊とかに入っていなくても。

はたまた、ちょっとだけ嫌いでも。

美形の男の人に微笑まれたら、赤面してしまうものだろう。

私らしくないと言われれば、確かに私らしくはない。
言葉遣いも悪くて、男と一緒に走り回るような私が、顔を赤くして照れるなんてさ。

…だからと言って、そりゃないだろ。


「…きっしょ」


うわあと、見るからに気持ち悪そうに顔を歪めた財前に、かすかな殺意を覚えた。


「いつもの先輩と違って寒気がしましたわ。…うわ、サブイボたっとる」

「財前てめえ」

うん、まあ、さっきの私はきしょかった。
自覚あるし、認めよう。

けど財前、先輩に向かってはっきり言うのはよろしくないよ。
せめてさ、「らしくあらへんわ」とかさ、優しく包めって。


「包むもなんじゃも、そないな余裕なかったっすわ。きしょくて」

「いてこますぞ!」


さすがにイラッときてしまい、拳を作る。
どうせひょいと避けられるだろう。

振り上げた拳を、掴んだのは財前ではなく忍足だった。
忍足はへにゃっと笑うと私の手を離し、まあまあと言う。


「落ち着きなや。財前は名前が可愛かったよってに照れてるだけやで?」

「えっ、!?」

「ちゃいますわ!」


忍足の言葉に、財前が本気で否定の声を上げた。
ぶんぶん首を振り、たくさんのピアスがしゃらしゃら揺れる。

…そこまで本気で否定されると、結構ショックなんだけど。


「アホなこと言わんとってください。俺、かわええなんて一言も」

「せやかて財前、さいぜんあないに見とれとったやん。説得力あらへんよ」

「謙也先輩っ、」


なにやら言葉を呑み込んだ。
そんな財前を見て、私は目を見開く。

あの財前が、言い返せないなんて珍しい。
図星なんだろうか?

…それより、見とれてたって、


「見とれてたって、忍足、どういうこと?」

「んん?……ああ、さいぜん、赤くなってん名前見て財前な、」

「謙也先輩っ!」


ニヤニヤしながらこちらを向き、さっきのことを話しだした忍足を、財前がぐいっと引っ張る。
私と忍足の間に入った財前は、ぐるっと顔だけを忍足に向けた。


「っ…………先輩、ウザいっすわ」


財前の顔は見えない。

けれど、ウザいと言われた瞬間の忍足の顔を見てよく理解できた。
忍足に、トラウマを植え付けてしまっただろう。
ガーン!という効果音のよく似合う表情だった。

ぷいっと忍足から顔をそらした財前が、私を一瞥する。
財前は特になにかするわけでもなく、なにか言うわけでもなく、その場を去って行った。


「ったく…シャイすぎるのも困りもんやな」


しばらく放心状態だった忍足が、頭をかきながらぽつりと呟いた。


「照れとった名前見てな、財前も赤くなっとったんやで」

「え」

「まばたきもしやんで名前見つめて。あの財前の顔写メりたかったわぁ………て、おぅ、名前?」


忍足のその言葉に、私は再び顔を赤に染めることとなった。



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