たしかにあれはとてつもない美形だ。いつも無表情の多いあれが、たまに見せる笑顔は例え営業スマイルといえど心ときめくものがあるだろう。学校でも鉢屋と並んで人気高いやつだ、女の人が寄ってくるのは仕方のない。
けど。こうも女客が群がり、私の進行方向を遮っているのはどうもいただけない。というより、なぜレジなのにものを持たず並んでいるのだ。買わないのなら出て行ってほしい。
久々知目当てでレジに群がる女の人たちは「久々知くんを出して!」と騒いでいる。我が恋人ながら異様なモテぐあい。…どうにかならないものか。小さなため息は彼女たちの声にかき消された。
どうやら久々知はまだ来ていないよう。さほど広くない店内だが、レジ場は女客の大群で見えない。初めて見たよこんな状況。
半ば感心しつつ、この群れが消えるのを今か今かと待つ。しかし、久々知目当ての客が増える一方で。しまいにはコンサート会場みたいな押すな押すな状態になっていた。
ふいにどんと音がして、私の体が傾いた。誰かにぶつかられたのだろう。着々と床へと吸い込まれていく。あ、やばい。


「――…大丈夫か?」

「…あ、久々知」

「ごめん、レジすぐやるよ」


どこから現れたのか、久々知が私を支えてくれた。にこりと優しく綺麗な笑顔を見せると、次の瞬間は冷たい表情に変わっていた。目を細めて客を睨む。久々知は私の手をとると大きな声で「お客さま」と叫んだ。
久々知くんの声!と一斉に振り返る。しかしその視線は久々知ではなく私に向けられた。まあ、そうだろう。好きな人間が知らない女と手を繋いでいたら気になる。
その鋭い視線に耐え切れなくなり、私は自分の足先を見つめた。同じ性別ながら女って怖いな。別に付き合っていることを隠してるわけじゃないけど、同じ学校の人はいないと願いたい。
理不尽に虐げられることを想像して恐ろしくなった。ふいに久々知と繋がっている手に力がはいる。まるで、私を安心させるように。


「他のお客さまのご迷惑になりますので、買い物などの用件がない方は申し訳ありませんがご退場お願いします」


出ていけ、という言葉が声にならずともわかる。固まる彼女たちをしり目に、人ごみをかき分け久々知が進んでいく。ひんやりとした久々知の体温は未だ手から離れない。


「遅くなるけど、今日名前の家に行くから」

「え」

「ご飯作って待ってて」


そう言って笑った久々知の手から、バーコードを読み込む音が聞こえた。


キャラメルソーダに溶かし


thanks クスクス




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久々知祭り了





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