「べべが汚れてしまうな」


珍しく含み笑いをした兵助がゆっくりとわたしの頬を撫でた。
細く長い指が輪郭を沿っていく。
終着点は、着物の衿だった。


「名前に似合ってるから、汚したくない」

「兵助、」

「また着てほしいのに…駄目にしたくない」


衿から移動した人差し指が鎖骨をいやらしく撫でる。
わたしを組み敷く兵助の顔は影でよく見えないけれど、雰囲気で分かった。
きっと、鉢屋のような意地の悪い笑顔を浮かべているのだろう。


「でも実はおれ、…着たままのほうが興奮するんだ」

「なに言って、…あ」

「隙間から見える太ももとかさ」


衿下に手を入れた兵助が着物を少しだけめくりあげた。
覗くわたしの右足を、ゆっくりと手が這い回る。
思わず声をあげれば、兵助は満足げな声をこぼした。


「…大丈夫、乱暴にはしないから」

「へい、すけ、」


だんだんと近づいてくる兵助の顔。
端正なその容姿に見とれる。
兵助はそのままわたしの耳に唇を寄せると、ぞっとするような低い声で囁いた。


「なんてね。冗談だ」



浅黄水仙を枯らしたい
(純潔を捨てる覚悟はもうできているのに)





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久々知祭りその弐





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