ぐい、と肩をつかまれる。
突然つかまれたせいでわたしの足はもつれ、ぐらりと傾いて転んでしまった。
わたしの目の前に立つ男はいやらしく笑うと、わたしに合わせてしゃがみこんだ。

「無視はよくねえよお嬢ちゃん」
「っ、すみませ、」
「ちょっと一緒にお団子食うだけなんだから」
「あの、」
「別になんもしねえって」

その顔で、それを、言うか。
男はにたにた笑いながらわたしに手を差し出した。
日焼けによって黒くなっている肌には傷がところどころある。
健康的な小麦肌はとてもいいものだけれど、こいつの肌は気持ち悪いのほかにない。

わたしと男の横を通り過ぎる通行人は、みんな顔を逸らして歩いていく。
きっと男の腰に備わっている刀二本が原因だろう。
わたしだって斬られるくらいなら助けを求められても見捨てる。
でもわがままを言っていいだろうか。
助けてください。

「やめろ」
「…はあ?」

人はみな強いものが上に立つ。
そう考えて泣きそうになっていると、凛とした声がわたしの後ろから聞こえてきた。
前の男が反応し、ゆっくりと立ち上がる。
見せつけるように刀の柄に触れた。

「なんだよ、お前」
「……なんだっていいだろ。とりあえずそこを退け」
「はあ?」
「さっきから邪魔なんだ。その人も嫌がっている」

再び「はあ?」と口にした男が、じゃりっと砂を踏みわたしから離れる。
そこでわたしは初めて振り返って、その人を目にしたのだ。

「お前みたいな野郎がいるから安心して歩けない娘がいるんだ」
「はあ?なに言ってやがる」
「はあ?しか言えないのか。そこを退け」

黒くて艶のある髪が揺れる。
長いまつげに縁取られた目は大きい。
背も高く細身で、綺麗な人だった。

男はその人の態度にカチンときたのか、少しだけ刀を抜刀した。
周りの人たちが悲鳴をあげる。
わたしも太陽の光を反射させたその刀が恐ろしくて、小さく声をあげてしまう。
けれどもその人は、なんら気にすることなく言葉を続いた。

「そばに女性がいるのに危ないだろう。鞘に戻せ」
「ふざけ、」

ふざけんな。
男はそう言いたかったのだろう。
しかしその言葉はぶつりと切れてそれ以上言葉にならなかった。
ぐらりと男の体が傾いていく。
何が起きたのか理解できない。
ただわかるのはこの人が何かをして、あの男が気絶をしたということ。

すくんで動けないわたしにその人が手を差し伸べる。
改めて見たその顔は、さっきまでの冷たい顔じゃなくてとてもとても、わたしが見たことのないくらいの優しい顔だった。




たったそれだけで
私の心は奪われてしまいました





title:DOGOD69



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久々知祭りその壱





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