「名前の腕は豆腐みたいに白くて、うまそうだ」
がしりと私の腕を掴んだその人は、無表情でそんなことを言った。
豆腐?と訊き返せば彼はとても嬉しそうに頷く。
「ずっと思ってた」
兵助先輩は掴んだ腕を目の高さまで持ち上げまじまじと見つめた。
…私の腕は決して綺麗ではないのだ。
だからあまり見てほしくない。
先輩はほんのすこし微笑んでから、口を開いた。
「…食べていい?」
その微笑があまりにも綺麗で一瞬なにを言っているのかわからなかった。
私が黙っていることを肯定と受けとったのか腕を引き寄せ軽い口付けをしてきた。
「ん…ちゅ、」
「ひっ…!」
掴まれていない腕で抵抗するものの、こそばゆさに力が抜けてしまう。
ちゅ、と小さな音を立てながら口付けを繰り返す先輩は、ぱっちりとした瞳を私に向け、反応を見ているようだった。
名前、と名前を呼ばれ顔をあげれば、にこりと微笑む先輩。
「きもちいいの?」
「なっ…な、何言ってんですか…!」
「…?だって、身をよじったから」
違うの?と腕から唇を離し訊ねてくる兵助先輩に全力で否定した。
ふうん、と先輩が目を伏せる。
「もう、いいですか…?」
ゆっくりと腕を先輩から離す。ところどころ赤くなっているのは、錯覚。錯覚である。
やっと離れた、と思ったのもつかの間。
再びがしりと腕を掴まれてしまった。
ぐっと引いてみるが、思いのほか力が強い。
兵助先輩はなぜかむすりとした表情をしている。
「…俺から豆腐とらないで」
いやいや私の腕は豆腐じゃありませんよ。
振り離すために大きく揺らしてみたら、今度はなんと両手で掴んできた。
先輩がまた、まあた、私の腕に唇を寄せてきた。
再び口付けをされると、身構えてみたものの柔らかな唇の感触は感じられない。
かわりに感じたのは、ちくりとした痛みだった。
「っ、」
兵助先輩が腕を、
一瞬だった痛みはだんだんじわじわとした痛みに変化して。
「ん、名前の味」
兵助先輩は、噛み跡により赤くなった私の肌を、ぺろりと舐めた。
ねっとりとした、ぬるりとした温かい舌の感触に甘い声が、…こぼれた。