「もう、むり」


気がついたら俺は名前を押し倒していた。無意識で自分でもわからなかったけれど、俺の下には頬を染めた名前がいるわけで。


「先輩…?」


「我慢するのは、もうむりだ。私にはむりなんだよ名前」


じっと彼女の瞳の奥を見つめ言葉をつむぐ。名前は俺と一向に目を合わせようとしない。そのことになんだか凄く苛立ちを感じて、くちびるに噛みついてやった。


「っ…は、ち」


桃色のぷくりとしたくちびるに小さな傷ができ、赤い血が浮かび上がってきた。
それをぺろりと舐めれば、名前の肩がぴくりと跳ねた。普通に、血の味がする。


「名前を前にして我慢するのは、もうむりなんだ」


「…せんぱい…」


額にちいさく口付けを落とす。おでこさえもなんだか熱くて、名前らしいと思った。一瞬熱だったらどうしようかと思ったけれど、まあいいかと流した。


「私はね、決して我慢強くないんだ」


優しく微笑むと、名前は少しだけ安堵の表情を見せた。くにゃりと八の字にさがった眉が、かわいい。


「…だからさ、」


押し倒された拍子にはだけた首もとへくちびるを寄せる。柔らかな肌の感触に俺の体が高ぶりを表した。これまた無意識に舌まで這わしてしまう。


「ひ、」


「…私に、美味しく食べられてくれないかな」


「はちや、せんぱい」


熱のある潤みを帯びた名前の瞳。俺が先ほど舌を這わせたことにどきどきしているのか、熟した林檎のように赤い頬。
舌っ足らずな言葉。
すべてが全て俺を誘っているようで、そしてとてもきれいで頭がくらりとした。



「ほんとうにもう、むりだ」



俺はその穢れを知らない首に噛みついた。



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