タカ丸さんが熱を出してしまった。
滝夜叉丸の話によると、先生の真似をして乾布摩擦を行っていたら風邪をひいてしまったんだと。


「あー…名前ちゃんだー…」


おばちゃんに借りた水を張った桶と手ぬぐいを持ち、タカ丸さんの部屋へ入る。
タカ丸さんは顔を赤くしながら、私を見てにっこり笑った。


「…気分はどうですか?」

「んとねー……だいぶ、良くはなった、かな?」

「疑問系は止めてください…」

ふにゃふにゃと笑うタカ丸さんはいつも通りで、少しだけ安心した。


「手ぬぐい、濡らしますね」

「ありがと…」


手ぬぐいを水に浸し絞る。
額の大きさに折り畳み、タカ丸さんの頭へと乗せた。


「ふー…冷たくてきもちーね」


笑顔を見せてはいるけれど、やっぱりちょっと辛そうだ。
粒になった汗が枕へと滲む。


「今、新野先生と善法寺先輩が薬を煎じていますから」


こくりと小さく頷くタカ丸さんへ微笑みかける。
汗とか拭いたほうがいいだろうか…しかしタカ丸さんの裸を見るのは少しばかり抵抗がある…。
でも汗だくでは気持ち悪いだろうし…。
ぺとりとタカ丸さんの首へ手を添える。
くすぐったそうにしていたが、しばらくしてその手に自分の手を重ねてきた。


「名前ちゃんの手、つめたーい」

「タカ丸さんが熱いんですよ。私の体温は普通です」

「あは、そうだね」


ふう、と長く息を吐いたタカ丸さんが目を瞑る。手を重ねられていないほうの手で、彼の額にある手ぬぐいに触れた。
…ぬるくなってきちゃった。
取り替えようと手ぬぐいを手に取った。
その手さえ、タカ丸さんに捉えられた。


「僕、名前ちゃんの手でいーや…」

「は、え?」


私の両手を掴み、自ら首元へ導く。
…私の手でいーやって、手ぬぐいはいらないってこと?
ため息をつきながらばだけ始めた布団をかけ直してやった。


「おやすみなさい、タカ丸さん」

「おやすみ…名前ちゃんが奥さんになったらこんな感じだろうね、…いいなあ」



タカ丸さんがすうっと静かに夢へと落ちた。
熱を吸収しているはずの手より、顔がボンッと熱くなった。
いま、いまのどういう…?
いいなあ…?

かわいらしい寝顔を浮かべるタカ丸さんへ、行きどころのない目線をやった。



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