恋愛に年齢は、
関係ない。
なんて、馬鹿な言葉もあったものだな。
「苗字先輩」
「んん、どうした庄左ヱ門」
10歳の僕と15歳の先輩、二人は恋仲に発展できるのか?
答えは明らかだ。
無理。
「勉強教えてください」
「おお、いいよ」
僕が20歳、彼女が24歳。
そうなれば話は別だ。
先輩より背が高いとか、幼い顔立ちじゃなくなるとか、声が低くなったり色気がでたり…そう、僕も先輩同様大人になれば恋が発展するだろうしかし、僕にとって大人になるまでが問題なのだ。
なぜなら、
「今日のテストで間違えた問題なんですけど…」
「どれどれ…?」
僕が11歳になった頃には、先輩は学園にいないからだ。
16歳になってしまえば、苗字先輩はくの一となって世に出て行くのだろう。
そうなったらもう二度と会うことはできなくなる。
利吉さんみたくフリーのくの一ならば会えるかもしれない。
山本シナ先生が恩師なのだ、会いにくるだろう。
…けれど、城に仕えるくの一とかになったら。
絶対会えない。
「これは、ほら…えっとなんだっけ…」
僕だって16歳になれば学園を卒業して忍者になる。
そうしたら、もうわかるだろう。
僕と先輩の繋がりが消える。
忍たまでもなくくのたまでもない、忍者とくの一。
先輩と後輩なんて関係が一気に崩れるのだ。
「これをこうして、並べ変えて文字にするんだ。出てきた文字は忍たまの友にも載ってるね、ほら」
「えと………あ!」
筆を握り答えを紙に書いていく。
苗字先輩は僕の答えを見たあと、にっこり笑って頭を撫できた。
「正解。よく考えたら簡単な問題だね」
「はい、ありがとうございます」
「お安いご用だよ」
ゆるゆると頭を滑る先輩の手。
僕が苗字先輩と同じ年に生まれることができていたなら、もっと昔からこの手の感触を知ることができたのだろう。
「…先輩は、忍術学園の先生になりたいと思いますか?」
「んん?そうだね、それもいい」
頭巾と髪のこすれる音が聞こえる。
儚げな苗字先輩の笑顔に、ほんの少しだけ涙を誘われた。
小さく俯いて、唇を噛む。
「…、…ぼく、としては…教師……向いていると思います」
「はは、…ありがとう」
まぶたがふるふると震えてきた。
卒業までまだあるのに、泣きたくなる。
「でも教師になったらね、シナ先生、喜ばないんだ」
「……、」
「くの一教師もいいけど、くの一はくの一らしくってね、言われてるんだ」
驚きで顔を上げた僕に、苗字先輩は柔らかい笑顔を向けた。
そして、綺麗な指が目元に触れる。
「…ごめんね庄左ヱ門。君の成長をずっと見守りたいんだけどさ」
「…じゃあ、見守ってくださいよ」
「ははは」
泣き出した僕を、先輩は優しく抱きしめてくれた。
庄左ヱ門が卒業する時は絶対に見に来るからね、そう言って笑う先輩を僕は目に焼き付けた。
進級おめでとう庄左ヱ門、先輩はそう言ってたまごの殻を捨てた。
行き先はわからないけれど、あの時の先輩の言葉を信じて。
「ご卒業おめでとうございます、先輩」
「……卒業おめでとう、…庄左ヱ門」