真っ暗な視界の中、頼りになるのは聴覚と感覚のみ。


「名前」

「さぶろう、?…どこにいるの?」


わたしの目を見えなくしたのは三郎だ。
…見えなくしたと言っても、頭巾で目隠しされただけだけれど。


「ここだよ」


右手を掴まれ、なにやらでこぼこした物に手のひらを当てさせられる。
暫くまさぐっていると、人の顔だということがわかった。


「…三郎の顔?」

「正解」


ちゅ、と音が響き手のひらを生温かいものが滑る。びっくりして声をあげると、「舌だよ」と三郎の声がした。


「三郎、目隠し、…とって?」

「無理なお願いだ」

「どうして…」


目隠しの布越しに、目へ指(たぶん)が触れる。
指は頬を伝って下へおりていき、唇を数回撫でた。


「私今、無防備なんだ。雷蔵の顔じゃない。…俺の、顔」

「!…素顔なの?」


そうと返事をした三郎の手が、わたしの髪を梳いた。
素顔って、いつもの不破くんの顔じゃないってこと。
無防備もそう。
不破くんの顔じゃない、三郎の顔。
三郎の、顔。


「…ずっと思ってたんだ。…なんで、雷蔵の顔で名前に口吸いしてんだろうってさ」

「名前の恋人は俺で雷蔵じゃない。…でも、素顔は見せられないから」

「…、目隠し」


顔に三郎の匂いを纏った、…髪、がかかってくる。
それはいつもの不破くんの髪とは違う、感触も、


「……好きだ」



素唇


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