「おい」
口に箸を突っ込んだまま、顔を左近へ向ける。
なに?と訊ねれば、彼は眉間に皺を寄せながら私を睨んだ。
「頬に米粒付いてる」
「え、うそ」
「気持ち悪いから早く取れよ」
危うくお茶碗を落とすとこだった。
左近はまるで汚い物を見るような視線を送ってくる。
……ふつう、「俺が取ってやるぜ!」とか言って食べてくれるんじゃないの?
……夢見過ぎか。
「………」
「……なんだよ」
「いや、…恋仲の人間としてはさ…」
少しだけがっかりした。
やっぱりそういう甘いことをしてほしくもある。
……まあ、左近だし仕方ないよね。
聞こえない程度の音量でため息をついて手を頬に伸ばす。
が、がちゃん!と勢いよくお茶碗を置いた音にびっくりしてその手をとめた。
恐る恐る見上げれば、顔を真っ赤にした左近が肩を震わせていた。
「…………どうしたの、」
え、そんなに怒ることだったの。
驚きで固まる私をよそに、顔をふんっと逸らす左近。
口を尖らせた左近が可愛くて、胸がきゅんと鳴った。
「べっ、別に、おまえがどうしてもって言うなら、やってやらないこともないけどっ?」
左近がちらちらと私を見てくる。
……左近がやりたいんじゃないの?
ツンデレめ。
「…え、遠慮しときます」
左近が固まる。
そして、みるみるうちに顔を真っ赤に染めあげた。
内心そんな左近を笑いつつ、ご飯粒に指をかける。
……………うわ、3粒もついてた。
恥ずかしい、これは確かに気持ち悪い。
ははは、と悲しくなるくらい渇いた笑いを零す。
その時だった。
突然、手を引かれたのは。
「!?」
引かれた手が、そのまま左近のほうへ。
ちょ、味噌汁に袖入ってるんだけど!なんて、文句も言えない。
…、左近が、指を、舐めた。
柔らかな唇に挟まれた指を、ざらざらとした生温かな下が滑る……って、うわ!
「ささささこ、!」
「や、やりたかったわけじゃ、ななないからな!おまえが、してほしそうな目えして、た、からっ」
お互い、顔を真っ赤にして俯いた。
いやいやいや確かに最初はしてほしいとか思ったけど、けどさ!
指についたのを、なめ、舐めなくても……それに!そんな目で見てないし…!
とは、…さすがに言えなかった。
ちょ、ちょっと嬉しかった…し?
「あ…ありがと…」
「れ、礼とか言われたら余計恥ずかしいだろ!ばか!」左近がそう叫びながら食堂を走り去った。
……ほかになんて言えと……?