お前の涙は美しいな。
回転するにつれて、いろいろな影絵が次々に見える仕掛けのとうろう。
息絶える時に見られると云う、走馬灯のような映像。
わたしはそれを、今、体験している。
「――おい!」
綺麗な顔を歪めた、わたしの憧れの先輩。
立花先輩が白い肌を青くしながら、わたしを抱えこんだ。
わたしが求めていたあなたとの触れ合いはこんな形じゃあなかったのに。
「――しっかりしろ!私を見るんだ!」
何を言います、わたしはいつでもあなたを見ていますのに。
冷たく残酷な雨が、先輩とわたしの体温をゆっくりとかっさらっていく。
…………疲れた。
「――馬鹿野郎!目を瞑るな!」
頬を叩かれる。
そういえば前に叩かれたのはいつだっただろう。
あれは、わたしが怪我を放っておいた時だ。
善法寺先輩にも、怒られたなあ。
わたしが悪いのに、叩いたあと、先輩は謝ってくれた。
「――くそっ!こういう時に……!」
必死にお腹の血を止めようと、装束を引きちぎる先輩。
わたしの血は雨に打たれ散り散りに流れていく。
ごぼ、と喉の奥から大量の血液がせり上がってきた。
苦しい、まずい。
「――血がっ」
ぼろぼろと先輩の目から落ちる滴。
…ああ、下からだとよくわかるんだ。
雨にもかくれない、涙っていう眼球を潤す液体。
お前の涙は美しいな。
涙か雨かわからぬまま、わたしの眼球を潤す水。
先輩、先輩、先輩。
先輩の顔がゆるゆると霞んでいく。
ああ先輩、先輩、好きです。好きです。
でも先輩、わたしはもうあなたとさようならのようです。
最後くらい最上の笑顔で答えてくださいね。
「わたしは、わたしのなみだよりうつくしいですか」
そうしてくのいちは少女に戻っていく。