苗字先輩の字はとっても綺麗だ。
土井先生の書く字も上手だと思うけど、苗字先輩の字はきれいだ。


「こんにちは、団蔵くん」

「あ、こ、こんにちは!」


布のかかったおぼんを両手で持った苗字先輩がにっこり笑って話しかけてきた。
そのまま通り過ぎるだろうなあと思っていたから、驚きだ。
少しどもってしまったけど、なんとか返事を返せた。


「それ、私服だね。遊びにいくの?」

「はい!虎若とお団子屋に」

実は、ちまちまと貯めてきたお金で先輩にお土産を買うつもりだ。
いつもありがとうございますと、お礼を添えて。
僕のお金で買えるものなんて限られているけど、髪紐くらいなら買えるだろう。
先輩に似合う、綺麗な紅色がいいなあ。


「じゃあこれ、虎若くんと二人で食べて」

「えっ、いいんですか?」

「さっき作ったの。安心して、何も盛ってないからね」


先輩が布をめくり、白色の丸いお饅頭を二つ渡してきた。
おぼんにはいくつものお饅頭が乗っていた。
懐から手ぬぐいを出して、受け取る。
苗字先輩は僕の頭を撫でて、ふわふわした優しい笑顔を浮かべた。


「帰ってきたら、お習字しようか」

「は、はい!喜んでっ」


先輩から誘ってくれるなんて嬉しい。
いつもは僕からお願いしているのに、今日は先輩から!
嬉しさが溢れて、顔が綻んでいく。
はいっ!とは組らしい元気な返事をすれば、苗字先輩はくすりと笑ってくれた。


字はその人の姿と言うけれど、苗字先輩は字以上に美しく綺麗な人だ。
僕のあげた紅色の髪紐が、とても似合う笑顔の素敵な人。
あの笑顔を守れたら…な、なんてね!



守誓



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