私は、よく転ぶ。それは自分でも理解しているつもりだ。

「いたい…」

まさか、凍った水たまりで滑るとは思わなかった。すべては今日の気温のせいである。なぜ今日に限ってこんなに寒いのか。前のように携帯を持っていなかったため、愛する携帯は無事だった。周りを見渡し、誰もいないか確かめる。よかった、誰もいない―…けど。

「……君ってさあ、ほんとよく転ぶね。ちょっと感心する」

隣に立つ。恋人がいる。あいつはけらけらと笑って私を馬鹿にした目で見下ろした。

「ドジじゃなくてバカだね」

言い返せない悔しさ。私は俯いてさっさと立ち上がろうとした。横に手をついて立ち上がる。…が。ずるりと、力を入れた足が再び滑った。ずでん!と盛大に、恥ずかしい音を立ててお尻がまた氷にくっついた。

「……」
「ぶっ、」
「……兵太夫」
「あははは!」

恋人を指差して笑う恋人ってどうなの?ちくしょう。兵太夫の笑い声と痛みに涙を浮かべながら、再び立ち上がろうとする。……また滑ったら嫌だな。兵太夫の笑い声はトラウマになる。

「ふー…、久しぶりに笑わせてもらったよ」
「…それはよかったね」
「あはは拗ねないでよ。ほら」

差し出された手を、見つめる。……これはあれか?握って立ち上がれということか。しかし兵太夫のこと。立ち上がった瞬間ぱっと手を離すに違いない。手を握らず、じっと見てくる私を不思議に思ったのか、兵太夫は目を丸くして首を傾げた。

「氷溶けて下着濡れるけど、いいの?」
「うそ!」

兵太夫の言葉に手がびゅんっと動いた。手を握ると、随分と強い力で引っ張られやっと立つことができた。振り向いて氷を見下ろすと、ちょっと…、ちょっとだけ溶けかかっていた。

「はー…よかった。ありがとう兵太夫」

あのまま握らずにいたら、…兵太夫の手を握りしめ、笑いかける。一度きょとんとした兵太夫だったが、すぐににこりと微笑み、ゆっくりと繋いでない手を伸ばしてきた。

「どういたしまして」

伸ばされた手が首筋に回る。ゆっくりと私の顔を引き寄せた兵太夫が、優しく頬に唇を押し付けた。とっさのことに動けない私に、兵太夫はにっこり笑いかけて頭突きをかましてきた。


「間抜け面」



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