俯いたわたしの視界の中にある、彼の手のひら。わたしは先ほどから、この手を握ろうとして、握れずにいる。意を決して手を伸ばすのだけれど、狙っているかのように夢前くんがわたしの名前を呼ぶためさっと戻してしまうのだ。
名前を呼ばれるだけで、心があたたかくなり頬は火照り、恥ずかしくなって手を戻す。恥ずかしいんじゃなく、ただ勇気がないだけかもしれない。夢前くんの手を握れたらどんなにいいかと、わたしは拳を作った。
「名前ちゃん、大丈夫?」
「、え」
「さっきから俯いてるから…。気分でも悪い?」
「あっぜんぜん!全然大丈夫だよ」
自然な動作で、夢前くんがわたしの顔を覗き込んできた。びっくりして一歩後ずさってしまう。綺麗な顔が目の前いっぱいに広がっていて、心臓に悪い。ばくばくする。
首を振って大丈夫と繰り返し言うと、夢前くんはしぶしぶという感じに頷いた。そしてゆっくり前を向き歩きだす。ほっと安堵の息をついてから、わたしも後に続いた。
あの手を、握れたら。夢前くんの体温とか感じられるんだろうな。繋いでみたいと思うけれど、行動には到底移せな、
「……どこかで休もうか。名前ちゃんがその調子だと、僕、気が気じゃないよ」
「あ、あああの、夢前くん」
「たしかあっちにね…」
ぎゅうっと強く握られたわたしの左手。そこからじんわりと夢前くんのほんのり冷たい体温が通じてくる。それとは間逆に、どんどん熱くなっていくのはわたしの頬。
ままま、ま、まままさか夢前くんから、繋いでくるなんて、嬉しいけど、は、恥ずかしいなあ。夢前くんは、澄ました顔でわたしの手を引いていく。わたしは手を繋ごうとするだけで精いっぱいなのに、彼にとっては特になんでもないことらしい。
(実はそうでもなかったりする)