今日も相変わらず、次屋くんは文句なしに恰好いいです。
と、斜め前の席を見つめながら心の中で誰かに告げた。
きっとわたしの呟きは心臓さんが拾ってくれたに違いない。
次屋くんのことを考えただけで、心臓さんはばっくんばっくんと跳ねるのだから。

ごそりと身じろぎをした次屋くんが、机に伏せていた頭を起こす。
地毛っすけど、と先生に言っていた茶髪と、前髪だけの金髪が揺れる。
前髪だけが金髪なんて、きっと前髪さんは自己主張がほかより強いんだ。
うふふかわいいなあと思いながらノートに目を落とす。
自己主張の激しい前髪さんとメモをした。
よし、と最後文字の近くにりんごの絵を描き満足げに微笑む。
そうしてからわたしは、黒板を写さないとと顔をあげた。

「…!、」

ぱっちりと。
ぱっちりと、斜め前の席に座る次屋くんと目が合ってしまった。
次屋くんは頬づえをつき横を見ていて、その視界にわたしが入ったのだろう、少し驚いた顔をしながらも視線を重ねててきていた。

「(う、わあ)」

次屋くんと目が合うなんてすっごい奇跡。
嬉しいけれど、やっぱり恥ずかしい。
つ、次屋くん、目、逸らしてくれないかな。
わたしにはそんな勇気ないからできない。
ああもう、恰好いい。

「…?」

次屋くんの口がかすかに動く。
その動きは、言葉を発しているようだった。

(ねぐせ)

…ね、ぐ…せ?…ねぐせ?寝癖、!
急いで髪を触る。
ぐしゃぐしゃにならないように髪を撫でていると、左耳近くにぴょこんと跳ねた髪があるのに気づいた。
あれ、朝はなかったはずなのに。
いつもなら寝癖くらい気にしない。
けれどそれは、次屋くんが学校をサボっていたからだ。
でも、今日は、次屋くんが、いる…!
しかもよりによって、次屋くんに教えてもらうなんて。
表すなら、ぼんっと湯気がでるくらい。
跳ねた髪を抑えながら見ると、次屋くんはにこにこ笑っていた。

(苗字さん、りんごみたいだ)

ば、ばかにされてる。
でも、次屋くんの唇がわたしの名前に動いたことが嬉しくて、

(りんご、たべたい)

そう動いた唇が、きれいに弧を描いていく。
いたずらに微笑む次屋くんの表情に、かあっと体温が上がり、顔や耳が熱くなる。
まっすぐ向けられた笑顔はわたしにとって毒で、頭が痛くなった。
急いで俯いたわたしの耳に、次屋くんのくすくす声が、聞こえた。



りんご=あなた



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