このあいだ先輩のくのたまに「あなたの恋人は何を考えているのか全くわからない」と言われた。喧嘩を売っているのかと思ったが、友達曰わく嫉妬ゆえの悪口らしい。どうやら彼女は先輩が好きだったようだ。好きな人の悪口を言うとはずいぶんとまあひねくれた性格で。しかし恋人の私の前で彼の悪口を言う行為は自爆にしかならないだろうに。
「先輩、いま何を考えていますか」
けれど確かに彼女のいうことはわかる。先輩は何を考えているかわからない。突然地面に星の絵を描いたと思ったらその絵を手でぐしゃぐしゃに消し「侵略完了。だあい成功」と言いだしたのだ。
「蛸壺のこと」
ひょこっと穴から顔を出した先輩が私の質問に答えてくれた。綺麗な髪には土がへばりついていて、ところどころ茶色になっている。その土を手で払っていると、上目遣いの先輩と目があった。相変わらず可愛い顔立ちをしている。
「その穴の名前は何にするんてすか?」
「まだ完成していないから決まってないよ」
先輩が再び穴の中に消える。しばらくしてざくざくと音が聞こえ、穴の近くに土が掘り出された。私のいる場所に掘り出されないのは彼の小さな優しさらしい。この前、平先輩が言っていた。
「ねえ」
ざくりと音が止み先輩の声が穴から響いてきた。私はそれに返事を返すと、「今何を考えてるの」と言われた。素直に「喜八郎先輩のことです」と告げる。先輩は短く「ふうん」と答え、穴掘りを再開した。不思議に思いながらも、私も質問を続けた。
「いま何をしていますか」
「穴掘り」
「いま何をしたいですか」
「情事」
「………。いま何を考えていますか」
沈黙と静寂。どうしたんだろうと穴を覗きこむと、とつぜん暗闇から手が伸びてきた。その手は私の首すじを掴み、穴に引き寄せた。思いのほか強い力で逆らえず、私はそのまま穴に落ちていく。どすんという音と共に目を開くと、私の下敷きになった先輩が見えた。急いで退こうとしたけれど、太ももをがっちり掴まれて動けない。私は下から眺められるという恥ずかしい格好のまま、すみませんと謝罪した。
「僕がさっき考えていたのは」
「……はい」
「情事のこと」
「…先輩、」
「で、いま僕が考えているのは」
「……」
「君の、」
こと、とでも言ってくれるのだろうか。だとすれば、嬉しい。かすかに頬が緩んできた。しかし、太ももを掴む先輩の手が腰に回り一気に強張る。なんなんだ一体。先輩の手を気にしながらも、次に出てくる言葉に胸を踊らせる。先輩は目を細めて口を開いた。
「裸体と痴態かな」
「は」