「名前、口吸いしよう」
そう言って私の髪を撫でた、彼を、私はゆっくりと見上げた。
にこにこと柔らかい笑顔を浮かべ、私を抱きしめるこの男は、不破雷蔵。
私の、兄だ。
「ほら、くち開いて」
細長くきれいな指が私のくちびるを滑る。
戸惑いながらくちを開くと、兄はにっこり微笑んで顔を近づけてきた。
「ふ、っ」
私と兄がこういうことをするのは、少なくない。
わりと、と頻繁にしている。
私がしたいと思ったことはないけれど、兄が、
「…もっとだよ」
兄いわく、兄妹の仲を深めるためらしい。
兄妹の仲を深める、とはこんなことをするの?と一度問うてみたけれど、兄は顔を歪め好きだと繰り返すだけ、答えてくれなかった。
「らいぞ、に、さ、」
「っは、名前」
兄の手が小袖の中へ入ってくる。
からだを重ねたのは、むかし、
「名前、」
「っおに、さま」
雷蔵お兄さまのことは、好きだ、それも、胸が痛いほど。
幼いころからこんなことをしていたからか、私は兄を男としか見れなかった。
兄は、嬉しいと泣いていたけれど。
私はほかの兄妹を知らない。
だから私たちがやっていることが正しいのか正しくないのかわからない。
でも私は、知りたく、ない。
「すき、好きだ。好きだよ」
「ん、ぅ」
「名前、」
「わ、私も、恋い慕っておりますっ」
からだを厭らしく弄っていた兄の手がぴたりと止まった。
そして私を強く抱きしめると耳元で呟いた。
「愛しているんだ」
今にでも消えそうな、その声に私は涙したのだった。