「池田ってばまじかわいいほんとかわいい抱きたい」


突然隣にいた女がなにやら危ない言葉を発し、床に膝をついた。
ぼくは驚いて、手に抱えていた本を落としてしまった。
ああああ先輩に怒られる!


「…なにしてんの」

「君のせいだよ!いきなり変なこと言って!吃驚しただろう!」


急いで拾いあげ、その女を睨みつけた。
彼女は意味がわからないという顔をした後、首を傾げやがった。


「不破、責任転嫁すんなよ」

「してないよ!」


頭の中を過ぎ去るかすかな殺意。
深く息を吸って、よこしまな考えを打ち消した。


「ごほん…なに、君、二年の池田が好きだったの」


自分でもわかるほど、蔑んだ視線を向けた。
なのにも拘わらず、彼女は頬をうっすら赤くしにへらと微笑んだ。
初めて見るそんな表情に、どきりとした自分を撲殺したい。


「好きっていうかさ…はは、えっとねー…」

「なんなのさ」

「ムラムラする」


ばっさりと斬られるとはこのことか。
まさかの発言に、ぼくは再び本を落としてしまった。
気にしてなんかいられない。
彼女に責め寄った。


「ま、まさか襲うとか…や、やめろよ…?」

「えっへへへえ」

「!」


奴の目は、本気だ。
そしてぼくは思った。
こういうときに、鉢合わせるのがこの世界のお約束だと。



「あ、不破先輩に苗字先輩」

「逃げろ池田あぁぁ」





人生とはお約束でできている。




目を光らせた彼女が池田に飛びつく。
そんな幼なじみを止めるまで、あと五秒。



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