「…名前ちゃん」


耳元で囁かれた声は珍しくかすれていて、低く、色っぽいものだった。


「ふ、不破くん、」


腰に回された不破くんの腕が、さらに力強くなり巻きついてきた。
足のあいだに不破くんの左足が割り込んできて、壁に押し付けられた。
…わたしはただ、勉強を教わりにきたのだ。
そしたら、頬を紅潮させた不破くんがいて。
突然抱擁されて。
普段の不破くんからは到底考えられない行動に、わたしはただ、戸惑うだけだった。


「……名前ちゃん」

とろんとした目で見つめられ、わたしの心臓は最も大きく鳴った。
かわいいのに、やっぱり恰好いい不破くん。
見つめあっているのが恥ずかしくて、わたしは不破くんの胸に顔を押し付けた。


「…どうしたの?」
「は、…恥ずかしい、」
「どうして?」
「どうしてって、あの」


不破くんの顔が近づく気配がして、わたしは目を瞑った。
しばらくして、たぶん、不破くんはわたしの耳を噛んだ。
ちくりとした痛みと、荒くなりつつある不破くんの吐息。
わたしはひたすら、赤い顔を俯いて隠した。


「………名前、」


まるで消えそうなくらい小さく、低く、不破くんが囁いた。
ぞくぞくした、耳や背中が。
わたしは声にならない声をあげて、不破くんの忍び装束を握り締めた。


「好きだよ」


わたしの首元に顔を寄せて不破くんが呟く。
返事をする代わりに、わたしは不破くんの背中にゆっくり腕を回した。





a drunken man




不破くんの足元に、空になった一升瓶が、転がっていた。



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