「さ、さいと、う」


いっぱいいっぱいのなか発した声は、自分でも驚くくらい熱っぽくて、甘ったるかった。


自分で出したくせに恥ずかしくて、恥ずかしくて、顔に火がついたみたいに熱くなった。


斉藤が目を細めてくすりと笑い、私へと手を伸ばす。


「なあに、名前ちゃん」


三日月の形に細くなったひとみと、その飄々とした表情が、すごくかっこいい。


するすると肌を滑る斉藤の手がくすぐったくて、ちょっとだけ身をよじった。


それと同時に、鼻にかかった声がこぼれ慌てて口を抑えた。


「ご、ごめ」
「俺は、ききたいけどねえ?」


ぐい、と両手首を掴まれ口から遠ざけられる。


固まったままの私の下唇を、斉藤が優しく噛んだ。


唇を重ねることは幾度かあったけど、か、噛まれたのは初めて。


「…まあ、抑える余裕なんてなくなると思うけど」


ふ、と不敵な笑みを浮かべた斉藤に、今度は舌を噛まれる。


だらしなく開いた口から、斉藤の生温かな体温が伝わってきて、かなり恥ずかしい。


ぎゅうと拳に力を入れる。


それを合図にしたかのように、斉藤の表情ががらりと変わった。


何もかも見下すような目、それが果てしなくかっこよくて、お腹がきゅんと鳴った。


「さ、いとうっ」
「名前ちゃん、手は背中だよ」


私はひたすら頷いて力の入らない腕を斉藤の背中に回した。


斉藤は満足げに微笑み私の頭を撫でる。


朦朧としていた意識が、斉藤の大きな手によって起こされた。


「さ、さい、と」
「名前ちゃ、」
「、た、たか、」


頭が真っ白になって、自分がなにを言っているのかわからない。


無我夢中で斉藤の名前を呼んでいたけれど、途中から、一度も呼んだことのない呼び捨てになっていて、


「…か、まる」
「名前ちゃん、ちゃんと言わなきゃだめだよ」
「、た、た…」
「…名前、」

「…たか、たか、まる…っ」



一瞬だけ見えた斉藤の顔は、私も見たことがない、余裕のない顔をしていた。


「…っ、かにごめんね、…名前、大好き」




止まらない



(欲と、)
(なにより愛が)





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