ぎゅう、と手を握られて心臓がはねた。あたたかいけれど冷たい先輩の手はすべすべしていて、わたしの手を優しく包み込んでいた。


「今日、食事当番なんだね」


わたしの目の高さにある久々知先輩のくちびるが、きれいに弧を描いた。
桃色の魅力溢れるそのくちびるを見ながら、わたしは頷いて久々知先輩の目を見据える。


「くのいち教室の先輩の代理です」


「…残念だ。今日は俺の部屋でゆっくりしようと思ってたのに」

そう言って先輩が俯いた。最近、2人きりでゆっくりできてないからかな。
繋がった手にかすかな力が加わって、ちょっとやそっとじゃ離れなくなった。嬉しいなあなんて。


「夜会いにいきます」


「それは俺の役目だよ」


「…えっ」


そんなつもりじゃ、言葉を呑みこんだ。わたしの言い方は、確実にそれを望んだ言い方だった。
なんだか恥ずかしくなって、うつむく。でもきっと赤い頬は隠せていないだろう。
久々知先輩はそれに気づいて、空いている手でわたしの耳を触ってきた。


「苗字さんが来てくれるのもいいけれど」


ふにふにと耳たぶをむだに触った久々知先輩が、ゆっくりゆっくりとわたしの顎まで手を下ろす。
そうして顎にたどり着いた手で顎をつかむと、先輩は無理やり上を向けさせた。


「夜這いされるのは趣味じゃないんだ」

口をひらくよりもさきに、口を塞がれる。くちびるが形を柔くかえて重なり合う。
一度だけ離されて、再び口づけられた。
繋いだ手がとてもあたたかい。わたしの手は緊張で冷たいのだけれど、先輩の手は非常に熱を持っていて。ちゅうと小さくくちびるを吸われ、久々知先輩が離れていった。


「…物欲しげに見ないでくれないか」


ちょんと、くちびるを手のひらでおされる。
途端に頬の熱が上がっていくのがわかった。わたし、くちびるばかり見つめていたんだ。ひとり自己嫌悪にはしっていると、わたしの顔に影がおちた。

見上げるのと同時に額への軽い口づけ。掠るのと同じくらい一瞬。おでこ、吹き出物ばっかじゃないかな……。


「きょうのおかず、豆腐だろ?俺のだけ大きく切ってよ、苗字さん」


そう言って笑った久々知先輩は、とてもきれいだった。



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